たまたま寂聴さんの本を続けて読みました。
帯に瀬尾まなほさんも仰天!って書いてありますが、たしかに・・・
P17
比呂美 先生はそのあと、今度は九十歳過ぎてガンの手術して、それから心臓を手術なさったわけですよね。そのときの気分はどんな感じでしたか?
寂聴 大病してもね、かならず治るのよ。もうどうしたの、これって感じ(笑)。
比呂美 ですよね。普通、九十四歳で心臓の手術してベッドにいたら、もう立ち直れないってことになってもおかしくないでしょ。どうやって元に戻られましたか。
寂聴 それが不思議なのよ。そうだ、寂庵でお堂を任せている係の人が「それは観音様が守ってくださるのです」って言うの。でも私は観音様に守っていただくほどお経も上げていない。「ちっとも拝んでないの、あなたが一番よく知ってるじゃない」って言ったら「私が毎日お水を替えて、私が拝んでますから」って。ハハハハ。
P63
比呂美 ・・・先生ご自身は、男に暴力をふるったことおありになりますか?
寂聴 ないわよ。力が弱いもの。本とか何か、投げつけるくらいね。
比呂美 まあ、それはさすがです。あたしはありますよ。死んだ夫が元気に生きてたころですけど、噛みつきました、ガブリって。腕に歯型がついて紫色になっちゃて。夫に通報されたら、アメリカだと大事になるところだったんですけど。
寂聴 よっぽど腹が立ったのね。
比呂美 もうね、嚙みつかざるを得なかったんです。英語で大ゲンカになって、英語ではたちうちできなくなって、追いつめられて、逃げ場がなくなって。
寂聴 それで嚙みついたの。ヒャヒャヒャ……(爆笑)。
比呂美 相手は三十近く年上だし、殴っちゃいけない、蹴ってもいけないと思ったら、つい口が出ちゃった。ガブリとやりながら「窮鼠、猫を噛む」ってこのことだと思いました(笑)。
P118
比呂美 小田仁二郎さんとは先生は四十代前半くらいまで八年ほど、お付き合いなさってたんですよね。
寂聴 そうよ。奥さんのいる家庭と私の家と、一週間の半分ずつ、行き来していたの。小田さんは「触手」みたいな、純文学の小説しか書けないから、小説家としては素晴らしいんだけど、仕事はないのよ。私のところに来るときは、食べるものでも着るものでも全部、私が出していたわね。
・・・
・・・新潮社に齋藤十一っていう名物編集長がいて、純文学作家を大衆作家にするのが趣味な人だったんだけどね。小田さんに「週刊新潮」に小説を書けって言ってきたの。そんなの、どだい無理なのよ。
・・・
それを小田さんが引き受けたのよ。奥さんにも長い苦労をかけた、子どもも大学にやりたいからお金が儲けたいっていうのもあったでしょう。それで、四苦八苦しながら時代小説なんか書いて、そうしたら突然ものすごいお金が入って来たのね。原稿料が。それをふたつに分けて、半分を家に持って帰って、それでも十分やっていける額よ。残りをね、私にくれたの。それでいやになったのよ。
比呂美 お金をくれたことが、ですか。
寂聴 そんなカネ、自分のために使いたくもないから。彼に大島の着物だの、英國屋のスーツだの、舶来の靴だのあつらえて、ぱーっと使い切ってしまった。
P120
比呂美 あたし去年、石垣りんさんの詩集を編んだんです。戦後すぐのはやっぱりプロパガンダのように、わかりやすく平和の尊さなんか書いていたのが、時代が平和になったら、自分の身の回りのこと、家族だ、きんかくしだ、しじみ汁だ、そういうふうに変わっていく。視点が変わると、詩がグッと深まってくるんですよ。
寂聴 ふんふん。小説でもそれはたぶん同じじゃない?
比呂美 詩を作っていて、自分の詩の形ができてくると、それを知らず知らずのうちに追いかけちゃう。自分で自分の真似をすることが、怖いなあと思う。
寂聴 私は六十年、七十年と書いてきて、自分で作りあげた形、スタイルみたいなのを無意識のうちに壊す、というのを繰り返している気がする。
比呂美 ここ十年だけみても、そうしてらっしゃいますよね。でも、それは無意識になさっているんですか、はー。ため息が出ます。
寂聴 自分でいやになるのよ、いつまでも同じような小説を書くことが。コツを覚えてしまうと、ダメなのよ。
比呂美 まさに、それです!自分の真似をしたら、自分で「真似した」ってすっごいわかります。で、それは、しちゃいけないんです。文学ってみんなそうだと思いますか。
寂聴 そう思う、やっぱり。コツっていうのはあって、みつけたら「やったぁ」と思うものだけど、それは一度しか使えないのよ。
P132
比呂美 先生、好きな男について伺いたいんですけど。想像ですが、先生が女真っ盛りのときと、しなくなった後では、好きな男のタイプが違うのではないでしょうか。
寂聴 そんなことない。
比呂美 そうなんですか。セックスしないってなると、男の見方も全然違うんだろうと思ってました。心惹かれるタイプは変わりませんか。
寂聴 私と仲良くなった男はダメになるのよねえ。私がひじょうにあれこれよくしてあげるんだけど、大成した男はひとりもいない。自殺したり、ものにならなかったり。
比呂美 ダメ男がもともとお好きなんですか。
寂聴 だからね、放っといても成功するようなタイプっていやなのよ。
比呂美 顔がいいとか、頭がいいとかは。
寂聴 私、昔からデブでハゲは嫌い。
比呂美 先生って面食いなんですね。あたし、ハゲ大好きです。
寂聴 セックスが強いんだってね。
比呂美 それ俗説では(笑)。ハゲ、かっこいいじゃないですか。あとヒゲも好き。そしてね、いい匂いのする男が好きなんです。いい匂いとはつまり、腋臭なんですよ。源氏の「薫大将」も「匂宮」も……。
寂聴 あ、あれは腋臭ね、絶対そう。
比呂美 でしょう?だからあの話が落ち着いて読めなくって。いったいどんな匂いなんだろう、とか思って(笑)。・・・
・・・
比呂美 あたし、そりゃ先生に比べたら小さなスケールですけど、男からはなんにも貰ってなくて、ただ男に貢いできたかも。
寂聴 あげたのよ、いろいろと。あなたも男と仲良くして、ものやお金という意味では男は何もしてくれていないよね。
比呂美 いやぁ、もしかしたらいろんなものを貰った、得してきたのかも。自分の作品のことしか考えない悪魔のような生き方だとか、自分の文学はこっちだと思ったら譲らない芯みたいなものとか。別の男からも、ものの考え方を教わったような気が。
寂聴 ふんふん。今日聞いただけで、あなたの男の話が四人出たわよ。
比呂美 三人ですよ(笑)。まあ、だから、お金はなくなったけど、損はしてないかなと。後悔もないですね。ねぇ先生、後悔しませんよね。
寂聴 そうね、不思議ね。後悔してないね。やっぱり好きだったんでしょうね、相手を。
ところで明日はブログをお休みします。
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