稲垣えみ子さんと、大原扁理さんの対談本。
面白く興味深く、書きとめておきたいところがたくさんありました。
(なので、数日続きます)
P10
いま世に出回っている多くのFIRE本は、結局のところ金融投資の話です。お金に振り回され続ける人生から自由になるために、お金を貯める・増やす・キープする。つまりは「お金さえあれば、お金から自由になれる」。それが従来唱えられてきたFIREの基本思想です。
でも、我らはそれとは全く別のところを熱く主張したいのです。なぜなら、実はお金を貯めただけではお金から自由になることなどできないから。・・・ひとつだけ申し上げれば、お金とは「あってもあっても足りなくなる」というフクザツな側面を持っているのです。・・・
お金を貯めなくても、誰だってお金から永遠に自由になることができる。お金に振り回され続ける人生から自由になることができるのです。そんなウマい話があるわけないと思われるかもしれないが、本当のことなんです。なぜってそれは、我ら年齢も境遇も性別もまったく違うふたり、すなわち、経済成長期に育ち競争社会をそこそこ勝ち抜いた「元エリートサラリーマン」である私と、かたや成長なき時代を生き競争からドロップアウトした「元ワーキングプア」である大原さんが、それぞれ全然違うきっかけからそれぞれにお金と格闘し、体を張ってつかみ取った「共通の結論」なのですから。
P28
ー・・・実際にいわゆるFIRE本を何冊か読んでみて、おふたりはどう思いました?
大原 僕は共感とともに読みました。FIREしたくなる理由はすごくわかるな、と。あと、外から見ていると確かに「閉じた生き方」に思えるんですけど、実際にFIRE本を読んでみると、FIREの目標地点が「働くか働かないかという選択の自由」を手にすることだとわかりました。ただ、カフェでFIRE本を読んでいる人たちは、何かしら自分の現状に問題を感じているから読んでいるわけですよね。何も不満がなければそもそもFIREを目指していない。で、問題解決方法ってもっといろいろあると思うんですけど、巷で言われているFIREはアプローチがすごく個人的で、設定している幸せの主語が小さいな、とは思います。
稲垣 自分が幸せになればいい、みたいな?
大原 そうですね。でも、FIRE本を読んで、FIREを達成した後に、社会を豊かにするために動き出す人がいる、ということを知れたのは希望だと思いました。
結局、自分が豊かになったときに、自分が豊かなだけでは満足できなくなる。世の中のために何かをしたくなる人たちがたくさんいるっていうのは、すごく希望だなと。なぜなら、自分もそうだったからなんです。
・・・
大原 ・・・今回、FIRE本をいろいろ読んだら、実際はいろんなFIREがあったんです。Lean FIRE(最低限度の資産を運用し、その運用益で生活すること)、Side FIRE(アルバイトなどの労働収入と、資産運用による運用益を合わせて生活すること)、プチFIREとか、いろいろあって。プチFIREなんて、60歳からFIREを始めることなんです。どこがretire early(早期退職)?って思うじゃないですか。
稲垣 たしかに。
大原 そういうものまでFIREに含めるなら、何でもFIREじゃないかと思いました。
稲垣 確かにそうですね。つまり、いちばん肝心なことは、そのリタイアが、何からのリタイアなのか?ってこと。突き詰めると「仕事って何?」ってことになると思うんです。
そもそも、ここはかつての自分も含めて勘違いしている人が多いと思っているんですが、仕事=会社に勤めること、ではないですよね。私の場合、仕事ってお金を稼ぐこととも限らないと思っているんですけど。でもFIREで言われているリタイアは、お金のため/家賃のために嫌々やっている仕事からリタイアする、っていうイメージです。お金のために自分を殺して、人生の一定の時間を過ごさなきゃいけないのが「仕事をする」ということ。そこから抜け出そうっていうのが、私の理解したFIREですね。
・・・
私も50歳で会社を辞めた当初は、30年近く勤めた会社の仕事が忙しすぎた反動で、人生の究極の理想はまさに「南の島でトロピカルドリンク」なイメージがあったんです。でも実際に辞めてみたら全然そうじゃなかった。それって理想じゃなかったって気づいたんですよ。
っていうのはですね、実は私、まさに会社を辞めてすぐ南の島に行ったんです。
・・・
・・・で、すぐつまんなくなったんです。時間を持て余しちゃって。
それでどうしたかというと、私は海外旅行の経験がほとんどないし英語も全然出来ないんで、そうすると珍道中というか、面白い失敗が日々いっぱい起きるじゃないですか。それをやっぱり書きたくなったんですよね。あんなに書くことが苦しくて新聞社を辞めたのに。なので、限られた友達しか見ないFacebookに、毎日めっちゃ充実した旅行記を書いていました。つまり、私が会社を辞めて最初にしたくなったのは「仕事」だったんです。もちろんお金にはならないんだけど、誰かに自分の書いたものを読んでもらって反応を待つというのは、新聞記者としてずっとやってきたことと基本同じじゃないですか。
そのときに、「仕事をしないって、つまらんことだな」と。・・・仕事って・・・自分が何かを生み出して他人に喜んでもらえる。いくら稼げるのかを取っぱらってしまえば、すごく幸せな、良い時間の使い方なんじゃないかって。
・・・
大原 ・・・仕事が、現代社会では「お金を稼ぐ」ってことに限定されているけど、広げて考えると「何かを生産する」みたいな。
稲垣 そう。もっと広げて言えば「誰かを助ける」ってことですよね。
・・・
・・・つまり「何かをして人を喜ばせる」ってことじゃないですか。その対価がお金の場合もあれば、笑顔とか、ありがとうって言葉とか、物で返ってきたり、お返しに何かをしてくれたり。100パターンくらいのお返しの仕方があって、でも、その何かは絶対返ってきますよね。一生懸命やれば。それってまさに、人間が生きることそのものだと思うんです。