未来はスタートライン

価値観再生道場 本当の仕事の作法 (ダ・ヴィンチブックス)

 昨日の記事のつづきです。

 針の穴に糸を通す時、向こうから引っ張られてる感じだと通る、言われて見ればその通りだなーと思いました。

 

P50

内田 オートバイでコーナリングする時は前のほうに「コーナーは抜け終わった自分」を想像して、そこに身体を合わせてゆくの。

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 もうコーナリングを終えた自分の背中に向かって身体を放り込んでゆく。今はたまたま過去にいるけれど、なすべきことをなしとげた「未来の自分」に追いつくっていう感覚でコーナリングすると、ぴたりと決まるんだ。

橋口 そのお話、よくいうイメトレ的なこととは別ものの気がする!未来の理想の自分をイメージして、そこへ向かっていきましょうっていうのより、「たまたま過去のほうに今いるので、これから未来の自分に追いつきます」っていう感覚のほうがずっと体感的にしっくりくる!

内田 針の穴に糸通す時ってさ、穴に向かって糸を進めても穴に通らないでしょ。もう通り終えて、向こうから引っ張られてる感じだと糸が通る。そういうものなんだよ。だから、精度の高い仕事とか困難な仕事しようと思ったら「それはもう終わってる」って断定するの。

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 もう終わったっていうその感覚が仕事に関しては特に必要。論文とか長い本とかを書いてる時に瞬間的にアカデミック・ハイがくることがある。何百ページもある本のまだ百ページぐらいしか書いてないんだけど、終わりまで全部見える時がある。これから自分が何を書いて、どういう資料を典拠にして、どういう結論を導くかまでありありと一望できる。必死でメモをとるんだけど、そのイメージはほんの数秒で消えちゃう(笑)。

名越・橋口 (笑)

内田 メモにはグチャグチャの文字が書き残されていて意味不明なんだけどね。でも、「僕はこの本を書き終えた」ということは身体的にありありと実感できる。仕事っていうのは、そうやってやるものじゃないかな。完成されたところから引っ張ってもらうもので、下から積み上げてゆくんじゃないんだ。

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 未来はスタートラインなんです。もう自分自身の半身はそこに届いてて、今の自分に向かって手を差し伸べている。

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橋口 未来はスタートライン。針に糸を通す時ひとつとっても、もう通ったと決め、向こうから引っ張られている感覚ですーっといくと通る・・・その〝体感〟へのコツをもっと知りたいんですよね。だいたい、なぜ叶わない夢は存在するのか。・・・実現する未来と、しない未来の差に何があるんでしょう。

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名越  この違いはね、すごく微妙!だけど大きく違うんです。想像してしっかりと手綱をかけることのほうが必要で、変に気持ち良くなりすぎてはいけない。気持ち良くなりすぎてる時って、人はどこかで「それは幻想だ」と思っているから、その瞬間、幻想の世界にすっと行ってしまうんですよ。

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橋口 内田先生は、何かを夢みて、気づけば幻想の世界に行ってしまったこと、ないですか?

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内田 僕の夢?そうだな、高校一年生の時にね、自分が五十歳ぐらいの時にどうなっているか書いたことあるよ。ほら、本の裏表紙に「著者略歴」ってあるでしょ?あれを自分で書いたの。一九五〇年東京生まれ、東京大学文学部卒のフランス文学者で、アンドレ・ブルトン眠狂四郎についての研究書とか書いてるの。著者近影もマンガで描いた。

橋口 えっと、それは幻想じゃなくて……。

名越 はい。それは手綱です!

橋口 内田先生が著者略歴を書いた時は、うっかり気持ち良かったりしましたか?

内田 すごくワクワクした。

橋口 わかった!気持ち良くなるということと、ワクワクするということは大きく違うんじゃないかな。やっぱり内田先生のはしっかりとした手綱だ。・・・

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内田 あ、叶っていない夢があった。「漫画家になりたい」っていうの。でも、その時の切実な感覚はもう忘れちゃってるなあ。漫画家の生活を細部まで想像できなかったから。「漫画家」という文字があって、ベレー帽かぶって、Gペン持ってる定型的な漫画家イメージがあるだけで、絵を描いているところは出てこない。細部までリアルに想像できない未来はやっぱり実現しないね。

 

P96

内田 仕事ってさ、本人の力量とは直接は関係がないじゃない。もちろん自分の力っていうのは、常に努力して上げていかなきゃいけなんだけれど。でも、上がったからといって、相関してすぐ仕事が来るわけじゃない。そこには必ずズレがあるからね。

橋口 タイムラグがあるということですか?

内田 うん。一生懸命頑張って、丁寧にいい仕事している頃って、案外注文は来ないものなんだよ。しばらく経って、その丁寧な仕事を伝え聞いたところから、さらに二次三次の情報を基に注文が来るわけで。でも、その後は、仕事の量がどんどん増えていくから、どうしたって仕事自体のクオリティは下がっちゃう。僕の実感としては、そうやってオーバーワークになって、仕事のクオリティが下がって疲れてきた頃に仕事依頼のピークが来る。その状態で、最初のクオリティを維持しようと思ったら、身体を壊しても働くか、仕事を断るしかないんだよね。