真夜中の栗

真夜中の栗 (幻冬舎文庫)

 小川糸さんのエッセイ。

 巻末にあった、佐伯洋江さんとの対談が印象に残りました。

 

P242

小川糸 ・・・先月日本で出した最新作『ライオンのおやつ』も、死がテーマになっています。ひろえちゃんにも読んでいただきたいと思って、日本からベルリンに送らせていただきました。

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 わたしが今回、死をテーマに物語を書こうと思ったのは、母ががんを患い、余命を宣告されたことでした。

 ・・・わたし自身は、自分の死に対しての恐怖感というのはあまり感じたことがないのですが、母は死ぬのが怖いと言って、怯えたんですね。わたしは、その姿に少し驚いたのですが、でも一般的には、自分の死に対して恐怖感を抱いている人は多いんだろうな、と思いました。

 だから、読んだ人が死ぬのが怖くなくなる物語を書こう、と思ったのが直接のきっかけです。・・・

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佐伯洋江 わたしは、人は、大きく分けて、ふた通りの人がいると思っていて、死んだら終わりと思っている人。それから、死んだあとにも、まだ続くと思ってる人。わたしは、後者ですが、まず、生まれてきたのが、どこからきたのか。そもそも、わたしたちが立っているこの丸い惑星は、一体どこからきたのか、その不思議に、畏怖の念を抱かざるを得ません。

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小川糸 実は、こういう内容のことを、ベルリンでよくワインを飲みながら、話していたんですよね。そもそもわたしとひろえちゃんが知り合ったのは共通の友人の紹介で、初めて会ったのは、2年前の初夏でしたっけ?

佐伯洋江 共通の友人のみゆきさんというのは、わたしたちの髪の毛を切ってくれていた、ベルリン在住の美容師さんで、ずいぶん前から、「糸さんって、本を書いてる人なんだけどね、ぜひ、紹介したいの!きっと、合うと思う!」。それで、やっとお会いできて、すんなり、仲良しになりましたね。

小川糸 わたしもみゆきちゃんから、よく、今度紹介したい人がいる、って聞かされていました。それで、初めて3人で会ったのが2年前の初夏で、ワイン祭をしていた会場でした。

 それから、急速に親しくなりました。わたしは、ひろえちゃんのことを、なんていうか魂のかたわれみたいに感じたことを覚えています。・・・

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 彼女が数年前にガンになっていたのは知っていたのですが、わたしもひろえちゃんも、そのことはもう終わったこととして、ふつうに接していました。でも、去年の冬に再発して、その時にはもう手がつけられない状況で、結局、亡くなったんですよね。それが、ちょうど一年前の今日になります。

佐伯洋江 わたしたちを含めた、最期に彼女の荷物の片付けをした数人のメンバーは、とっても、悲しみましたよね。なぜ、身近な友人の病状を把握し切れていなかったのか、と、悔しい思いもしました。でも、同時に、ますます、死が、「ただ一枚の、薄っぺらい幕の向こう側」という感覚になりました。

 夜、窓を開けたときには、「わたしも元気やで~!」って、思いきり、手を振っています。

小川糸 わたしは、喜びながら生きることがいかに大事かを、彼女の姿から教わりました。あれは、3月3日のひな祭りのお祝いでうちに集まった時でしたが、お昼にちらし寿司を食べて、話していたら夕方になって、ちょっと散歩がてら買い物に行こうという話になり、その時に、ひろえちゃんが、「ジョイフルやで~」と言って、なんだかわからないけど、3人で大笑いして。それから、ジョイフルが、わたしたちの間で流行語みたいになりました。

 でも、ジョイフルってことが、わたし、人生で何よりも大切なんだな、その瞬間瞬間が、喜びに満たされること、人が生まれてくる時に果たさなければいけない使命というのは、幸せになることなんだと、それが彼女からのメッセージだったんじゃないかな、と思っています。