極上ひとりメシ

dancyu“食いしん坊”編集長の極上ひとりメシ (ポプラ新書)

 

 この本を見かけて、植野さんをテレビで見たときに、ほんとうに食べることへの好奇心がすごいなぁと驚いたことを思い出して、読んでみました。

 こんな風に毎食を味わっていたら毎日楽しいだろうな~と、面白かったです。

 

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 いきなりですが、実際に「ひとりメシ」で編み出した食べ方の例をご紹介しましょう。これで、僕がどのような食いしん坊なのか、そして食べ方ひとつで食事の楽しさや味わいが変わるということを少しわかっていただけると思います。

 まずはナポリタンの食べ方。

「植野と言えばナポリタン」と言われるほど(僕の周りのごく一部ですが)、長年にわたって食べ方について研究と工夫を重ねてきました。いまや多くの食いしん坊たちが真似をしているという究極の食べ方です。いきなりこれを読むと「変態!」と思われるかもしれませんが、試しにやってみてください。同じ料理でも、味わいが本当に変わりますから。

 ナポリタンに、いきなり粉チーズとタバスコをふりかける人をよく見かけますが、それはもったいない。それでは、最初から最後まで同じ味、しかも粉チーズとタバスコとナポリタンが混ざり合って平板な味わいのまま食べ続けることになります。

 僕は、まずはそのまま食べてプレーンな味わいを確認(「ストレート」と呼びます)。次に、フォークに粉チーズをふり、そのままスパゲッティを巻いて食べます。こうすると、口の中でナポリタンの味わいが広がり、その後から粉チーズの香りが追いかけて来ます。味わいにグラデーションができて、より複雑性を感じられるのです。これを「インサイド」と呼んでいます。

 同様に、タバスコでも「インサイド」で食べます。さらに、粉チーズとタバスコをフォークにふる「ダブルインサイド」もあります。

 次に、スパゲッティをフォークで巻いてから、粉チーズやタバスコをふります。「インサイド」とは逆に、粉チーズやタバスコの風味の後からナポリタンの味わいが追いかけて来ることになります。これは「アウトサイド」と呼び、当然ながら「ダブルアウトサイド」もあります。

 さらに、「アウトサイド」には、粉チーズなどを上からふる「アップ」と、皿に粉チーズなどをふっておいてフォークで巻いたスパゲッティの下面につける「ダウン」というバリエーションもあります。

 つまり、「ストレート」「インサイド」「ダブルインサイド」「アウトサイドアップ」「アウトサイドダウン」「ダブルアウトサイドアップ」「ダブルアウトサイドダウン」……と一口ずつ、異なる味わいを楽しむのです。

 面倒くさいな、と思うかもしれませんが、一度試してみてください。たとえば一皿800円だとすると、いきなり粉チーズとタバスコをふりかけている隣の人は800円の価値でしか食べていないけれど、860円くらいの価値を楽しめますよ。