いろんな社会があるなーと興味深かったです。
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生きているとなぜ、働いてお金を稼がなきゃいけないのだろう。
そんな根本的なことを、僕はときどき考えてしまう。
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『働くことの人類学【活字版】』は、世界のさまざまな地域について調査をしている人類学者たちが、仕事やお金というテーマについて語っている本だ。もともとはポッドキャストの番組で、それが書籍化された。
世界中のどこでも、人は仕事をしてお金を得て生きている。それはみんな同じだ。
しかし、仕事やお金についての考え方は、それぞれ全然違っていて、面白い。
この本の中で面白かったのが、貝殻のお金を法定通貨として使っているパプアニューギニアの「トーライ」という社会の話だ。
貝殻のお金を使っているというと、すごく未開な生活のようなイメージを持ってしまうけれど、そうではない。ちゃんとした町もあって、普通の貨幣もちゃんと流通しているところで、貝殻のお金も使われているのだ。
貝殻のお金は、「タブ」と呼ばれていて、普通のお金とは別の意味を持っている。
会社などで労働をして受け取るのは普通のお金だし、買い物をするのも普通のお金だ。
タブはどう使われるかというと、買い物をすることもできるし、交換所でタブと普通のお金を交換することもできる。しかし、タブのメインの使い道は他にある。
それは、結婚式や成人式や葬式など、冠婚葬祭のときに贈るものとして使われるのだ。
この社会では「タブをたくさん持っている」ということは、「親戚や地域の中で人望がある」ということを表している。
普通のお金をたくさん貯めてもあまり尊敬されないけれど、タブをたくさん持っている人は偉大な人物として尊敬される。タブは、名誉や人望といった、コミュニティの中の社会的価値を表すお金なのだ。
彼らにとっては会社で仕事をして普通のお金を稼ぐことよりも、地域や親戚に貢献してタブをたくさん貯めることのほうが大切とされている。
ちなみに、貯めたタブは、その人が死んだら全部、葬式のときに来た人に配ってしまう。
葬式のときにたくさんタブが集まっていると、「あの人はすごい人物だったんだな」とみんなに尊敬される。
そうやって死ぬのが最高に名誉なことなのだ。
深田:「お金をいくらもっていても虚しい」という言い方を私たちはしますが、トーライ社会でもいわゆる法定通貨については似たようなところもあります。でも、貝殻のお金に限っては、たくさんもっていることが充実した人生を送っている証になるようなところがあります。
お金って、私たちにとってはなにか物と交換するための道具ですよね。お金を何かにかえて、それで初めて充実感が得られる。だからいくらお金をもっていてもそれだけでは虚しいとなるわけですが、トーライの貝殻のお金は、それ自体がどこか最終目的のようになっていて、そこが私たちとは違うかもしれません。
『働くことの人類学【活字版】』より