フロー状態にあると・・・

超人の秘密:エクストリームスポーツとフロー体験

 今この瞬間にいること、分離の不安がない、・・・フロー状態で日常を過ごすことってできたりするのでしょうか・・・ 

 

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 二〇〇一年九月二三日、クルークシャンクはノーリミッツでの一三六メートルの潜水記録を達成し、自身初の世界記録を樹立した。・・・

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 クルークシャンクが始めたのは、今その瞬間を生きることが求められるスポーツだった。それは比喩ではない。・・・三〇〇フィート(九〇メートル)の海面下では、逃げ場がないのだ。クルークシャンクが「よけいなことに頭を使わないようにするのがとても重要」と言うのは、潜行中には、未来(空気を使い尽くす可能性)や過去(間違った判断のせいで、空気を使いすぎた)を考えないことが生存につながるという意味だ。クルークシャンクはそうしないために、自分のいるこの場所、この瞬間に集中し続けるトレーニングをした―今この瞬間こそ、フローが現れる唯一の時間であり、私たちが非凡なことをできる唯一の時間なのである。

 しかし、「今この瞬間、この場所」にいることは、最近では少なくなってきている。・・・未処理の書類の山、今日の昼食会、今夜の保護者面談、明日の締め切り、来週までの報告書、その直後にある業績評価といったことに囲まれていれば、その瞬間を生きることができないのは無理もない。

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 もっと悪いのは、瞑想に挑戦した人はすぐに気づいているとおり、こうした傾向を変えるのは簡単ではないことだ。・・・ところがクルークシャンクは何十年もかけてトップに上っていったのではない。数年もかかっていない。まったくの初心者から世界記録保持者になるまで、一年半しかかかっていないのだ。なぜだろうか?それはクルークシャンクが「現在」への近道をとったからだ。

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 フローに入りやすくすることが目的なら、強調すべきなのは「目標」ではなく「明確な」の部分である。思考の明確さは確実性をもたらす。何をすべきかがわかるし、どこに注意を注ぐべきかもわかる。目標が明確なら、メタ認知の代わりに、その瞬間についての認知が用いられるようになり、自己意識の出番はなくなる。

 クルークシャンクは言う。「コンスタントウェイトで潜るとき、記録更新について考えないし、潜行全体についても考えられない。それはあまりに手に負えないのです。潜行全体を分割して、小さいけれど明確な目標を作るのが大事なんです。私はキックサイクル(訳注:足を上下両方にキックして一回と数えるサイクル)を考えるようにしています。『ボイス』[直観の声]がカウントし続けます。ひとつのサイクル、その次のサイクル、さらに次のサイクルというふうに、注意してキックしたい。そのカウントを続けること、それが私の唯一の目標です。カウントし続ければ、潜行中ずっとフロー状態でいられます」

 

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 ・・・ライスはこう言う。「スノーボードをするというのは、信じられないほど深い体験だ。それのおかげで、自分はまったく違う人間になった。特に信心深い環境で育ったわけではない。子どものころは、すべては目に見える証拠を中心に動いていた。目に見えないもの、経験できないものは存在していない、と思っていた。ところが、平手打ちを食らうような経験をいくつもするうちに、こういう次元の低い精神性から抜け出した。これまで証拠があるなら見せてみろと思っていたが、そいつを突きつけられたわけだ。今、私に向かって神は存在しないと言いたい人は、まずその証拠を示さなければならないということになる」

 そしてライスは、深いフロー状態で得られる一体感という経験について、証拠にもとづいて話してくれた。「あらゆる恐怖の根本の部分には、まわりの人や物から分離されるという不安がある。特にそれが当てはまるのが、死の恐怖についてだ。ところがフローでは、それが完全に消え去る。それは何より安心する事実だ―分離の不安がない、つまり死がないのだから。・・・」