未来を予測する

超人の秘密:エクストリームスポーツとフロー体験

 この辺りもとても興味深く読みました。

 

P144

 ・・・過去数十年の神経科学分野の研究によって、大脳新皮質の主な仕事は、「未来を予測すること」だとわかってきた。これは、それまでの知識を根本からひっくり返す新事実である。従来の考え方では、大脳新皮質の仕事といえば「ものごとを解釈すること」だった。つまり、感覚器官が収集したデータをもとに、現在世の中では実際に何が起こっているかを判断するという作業である。一方、新しい考え方では、感覚器官がデータを集め、脳はその情報を使って、世界で起こっていることを、それが実際に起こる前に予測するとしている。たとえば、ドアに近づいていく場面を想像しよう。ジェフ・ホーキンスとサンドラ・ブレイクスリーの著書『考える脳 考えるコンピューター』・・・では、「『予測』とは、ドアについての感覚にかかわるニューロンが、入力を実際に受け取る前に興奮することを意味する」と言っている。

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 ・・・スポーツをするときには普通、接近する物体と反応時間についての計算が必要になる。アスリートはもともと、こうしたパターンを完全に心得ている。そのため、アスリートの脳は、わずかな情報・・・を取り込んで、・・・非常に複雑な予測を作り上げることが可能なのだ。・・・

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 ・・・パターン認識から将来の予測まで、フロー状態において起こる一連の変化を考えてみよう。まず、ノルアドレナリンによって、集中(データ収集)の対象が狭くなる。次に、ドーパミンパターン認識(データ処理)の能力を高める。次にアナンダミドが水平思考を勢いづける(パターン認識システムによって検索されるデータベースの範囲を広げる)。結果として、人の心を読めているような感じが実際にするのだ。その感覚について、一九五〇年代から一九六〇年代にかけて活躍した、バスケットボールの伝説的プレーヤーのビル・ラッセルは、彼の伝記・・・で次のように語っている。

 

 セルティックスのゲームではときどき、ヒートアップするあまり、ゲームが単なる肉体的なものや精神的なものではなく、魔法のようになることがあった。・・・それが起こると、自分のプレーがこれまでにないレベルに達するように感じられた。・・・その特別なレベルでは、あらゆる奇妙なことが起こるんだ。・・・まるで、自分たちがスローモーションでプレーしているみたいだった。それが続いているあいだは、次のプレーがどうなるか、次のショットがどこに行くかがだいたいわかった。・・・予感はどんなときでも正しかったので、セルティックスというチームだけでなく、相手チームのプレーヤー全員のこともすべて理解していて、彼らも自分のことをわかっているという感覚になった。キャリアの中で、感動することや嬉しいことはいろいろあったが、あの瞬間は、背筋がぞくぞくする感じがした。