まだ誰も見たことのない未来の話をしよう

まだ誰も見たことのない「未来」の話をしよう (SB新書)

 オードリー・タンさんの本、また読んでみました。

 

P26

 私は毎週水曜日をオープンオフィスの日と決めて、誰でも私と対話することができるようにしています。・・・

 40分間の面会の間、私が話すのは最後の10分間程度で、他の時間は相手の話に耳を傾けることに集中します。

 なぜそんなに集中しなければならないのか?それは、私が相手の視点から物事を見てみたいと思っているからです。相手の視点に立つためには、相手が言いたいことを完全に理解することが必要です。

 ・・・私は相手がなぜそれをとても重要だと思うのかを知るために、徹底して相手の視点に立たなければならないと思っているのです。

 私の考え方が自分の視野によって制限されているように、他の人は私とは違う世界を見ている。これは対話において基礎となる概念ですね。相手には私が見えていないものが見えているかもしれないし、相手の考えのほうが道理にかなっているかもしれない。私は、いつも自分が間違っているかもしれないという感覚を持ちながら話を聞いています。

 とはいえほとんどが初対面の相手ですから、先入観を抱きやすい状況です。自分が疲れているために「相手も疲れているだろう」と思い込んだり、相手が楽しそうに見えるから「この人が楽しいんだ」と錯覚するようなことが起こりやすいんですね。だから私は完全に自分を手放します。発言はせずにひたすら傾聴し、相手の視点を取り込むことに集中します。

 

P90

 ・・・2012年頃の台湾は、「政府が何かをしているようだが、国民には何をしているのかがよくわからず、自分たちは何をすればよいかわからない」といった状況でした。だから、多くの人々は「なぜ私たちがこんなに困っているのに、政府は興味がないんだ!」と憤っていました。

 それを見かねた若者たちが集まって、シビックハッカーによるコミュニティ<g0v(ガヴ・ゼロ)>を作りました。私も設立当時から参加しています。

 シビックハッカーとは社会問題の解決に取り組む民間のエンジニアのことですが、2021年11月時点で1万人を超えているこのコミュニティの参加メンバーのほとんどはエンジニアではありません。・・・さまざまな人が集まり活動しています。・・・

 彼らのスローガンは「なぜ誰もやらないんだと嘆くより、まずは自分がその〝誰もやらないうちの一人〟であることを認めよう」です。・・・

 <g0v>は、「政府がうまくできないなら、自分たちが手本を見せよう」というスタンスをとっています。「自分たちの手本を見て、政府がもしいいなと思ったら、政府はそのままそれを使えばよい」と思っていますし、これまで何度もそのようなことが起きてきました。

 先述した<マスクマップ>も、新型コロナウィルス感染症が見つかったばかりの頃、「マスクがどこにも売っていないじゃないか」と怒っている人を見た台南在住のメンバーが、「マスクはきちんとある。ただ、それが可視化されていないだけだ」と考え、徹夜で作ったのが始まりでした。・・・

 私を含めた<g0v>のメンバーは何をするにもオープンソースで作りますから、この<マスクマップ>は後に他の国々でも使われていきました。前述した通り、私の仕事は、すべての人が孤独に闘うのではなく、助け合えるよう「ソーシャルイノベーション」を用いて支援することです。自分の地域社会の問題を解決することができたら、その解決方法やそこに至るまでの過程をシェアすることもまた、非常に重要です。・・・

 ・・・「ソーシャルイノベーション」において大切になるのは、「共通の価値観」でつながり、連帯していくことだと思います。社会問題とは誰かが解決してくれるのを待っていたり、自分一人で解決しようとしても永遠に一部分しか解決できません。異なる能力を持っていたり異なる角度で物事を見る人が、自分とは異なる部分の問題を解決できるのです。・・・

 

P103

 では、こうした「共通の価値観のつながり」によって、「ソーシャルイノベーション」が生まれるために必要な要件とは何でしょうか?

 私は、社会が自由で、これまでに見たことがないものでも、受け入れることができるということだと思います。

イノベーション」とは「これまでに見たことがないもの」という意味ですから、社会がそれを受け入れられるということが必要になりますよね。・・・ですから、コミュニティに入ってきたばかりの新人や、初めて自分の考えを打ち明けた人に対して親切であることも大切です。・・・