素敵なお友達

いつも私で生きていく (小学館文庫 く 15-1)

 岸恵子さんと兼高かおるさんと草笛光子さん。豪華メンバー過ぎます(笑)。

 

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 岸恵子さんとは、長いつきあいです。女優同士としての友情というより、普通の女同士としてのつきあいをしてきた、掛け替えのない女友達です。

 同じ横浜生まれで、学年は1年違いますが、女学校が一緒で、彼女も私も舞踊サークルに入っていました。

 芸能界に進む生徒はめずらしい学校だったにもかかわらず、同じころに、彼女は映画の世界に、私のほうは歌劇の世界に入りましたので、芸能界への入り口は違えど、一緒に育ってきたという気がします。

 お互いに忙しいし、いろんなことがありましたから、何年間も会わなかった時期もありますが、会わない期間がどんなに長くても、会って顔を見たら、「それでね」と、まるで先週の話の続きをするかのように、しゃべり始めます。

 普通、女優同士では、相手に聞いたり、言ったりしないようなプライベートなことを、彼女とはたっぷり語りあったものです。

 私の打ち明けた辛い話に彼女が涙を流したこともあるし、もちろん、その逆もありました。

「男の好みは全然違うけど、私たちに共通しているのは、金持ち面した男は嫌いだということね」

 なんて、笑いあったこともありました。

 性格は対照的かもしれません。岸さんは考えがはっきりしていて、それをちゃんと言葉に出す人で、情熱的で行動的。私は、考えや気持ちをうちに秘めて、あまり外に出さないタイプ。

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 それにしても、人と人の関係というのは面白いものです。自分と似た相手なら理解できるというものでもないようです。

 ようは〝心の言葉〟が通じるかどうか。普通の女として、人間として、お互いを信頼して、胸のうちを見せられるかどうか。

 そういう女友達がいることは嬉しいことです。

 話の尽きない女友達といえば、兼高かおるさんも〝心の言葉〟で語り合える、得難いお友達です。

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 年齢は兼高さんのほうが5つぐらい先輩ですが、余計な気を遣わなくてよくて、気も合うのです。

 自分自身はずっと東京で生活しているのに、なぜか私は、世界を旅したり、世界をまたにかけている人と気が合います。兼高さんがまさにそうだし、岸恵子さんもフランスで暮らしていた人だし、朝倉摂先生もしょっちゅう海外と日本を行ったり来たりしている方です。

 必要に迫られてとか、勉強のために行くとか、目的も事情もそれぞれですが、彼女たちは外国に行くと、胸も広がってホッとするような、ラクな気持ちになれるのよ、とおっしゃいます。

 縛られるのが好きじゃない。群れるのがイヤ。そういう気質が彼女たちに共通してあり、私は東京暮らしだけれど、気持ち的にはそういうところがあるので、〝海外組〟と気が合い、楽しいつきあいができるのかもしれません。

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 若いときは、男性と女性の関係といえば、恋人か夫婦か、または、男女としての感情はぬきの気の合う仕事仲間、というふうにわりとシンプルに区分けができるものだったように思います。

 年齢を重ねると、そのどれにもあてはまらないようなつながりができることがあります。

 兼高かおるさんと、彼女の仲良しの男性の関係も、そんなふうな、どれにもあてはまらない、素敵な関係です。

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「今日はね、このあと、もうすぐ彼が来るのよ。なにかおいしい食べ物を買ってきてくれるのよ」

 とおっしゃるのです。しばらくして登場したのが、40歳前後ぐらいの、スラッとした男性です。

 どうやら、仕事でつながりのある方らしいのです。仕事で一緒になることもあるし、けれど、仕事を直接していないときにも、時々、仕事場に顔を見にきてくださり、兼高さんが海外に旅行に行くというときに、空港までの送り迎えをしてくださったりするのだそうです。

 年下のボーイフレンドとか恋人、というのともちょっと違う感じで、ただの仕事の相手でもない。その方が兼高さんのことをとても尊敬なさっていて、彼女のことを大切に思われている。だから、お姫さまを扱うように接していらっしゃるのだなと、私には感じとれました。

 兼高さんが椅子から立ち上がるときには、脚をいためている兼高さんを気遣って、さりげなく、さっと手を差し出して支えていらっしゃる。その姿がなんとも、優しくて清潔感のあるジェントルマンな感じで、いいのです。

「いいわね」と私が言うと、兼高さんは、

「いいでしょ。外を歩くときは、ころばないように彼が手をつないでくれるの。ステッキがいらないのよ、だから、名づけて、素敵ボーイ」

「あっ、ステッキボーイね」

「ええ、そうそう」

 などと、話しました。