度胸?

お見合い35回にうんざりしてアメリカに家出して僧侶になって帰ってきました。 (幻冬舎単行本)

 生活を始めてみたら用意していたお金は半年もしないうちにすっからかん、さて、どう生き抜くか、となった時のお話です。

 

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 アメリカでの最初の仕事は、テレビCMでした。日本町にある日系スーパーの掲示板で、たまたま目にした募集の張り紙。「テレビCM出演者求む」の大きな文字の下に、小さく書かれていた「謝礼あり」の文字。吸い寄せられるように、その黄色い紙に近づきます。募集要項には「要演技経験者」と太字で書かれています。

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 学生時代、地元テレビ局で、お天気お姉さんとレポーターをしていたという古い記憶を引きずり出し、近からず遠からずだと、とりあえず応募。なんてったって、謝礼がかかっているのです。うまくいけば、ロケ弁も食べられるに違いない。そうして受けたオーディション。並み居る応募者の中から見事合格を勝ち取れたのは、生活がかかっていた私の気迫勝ち。だったのだと思います。

 こうして全米で放映されたCMの商品は、キッコーマンさんのポン酢でした。・・・テレビの影響力は大きいもので、会う人たちに「Ponzu Girl!」と呼ばれるように。おまけに有難いことに、このCMを見た方から、他のお仕事をいただくようにもなりました。・・・

 でもね、そう簡単にはいかないのです。ポン酢のCMの時は、オーディションを主催したのは日系の広告代理店。撮影現場のスタッフも、ほとんどが日本人でした。しかし、このCMをきっかけにしていただいた他の現場は、日系ではありませんでした。

 そう、英語です。ここでも立ち塞がる英語の壁!
 もうねぇ、笑ってしまいます。まったくわからないのです。企業が発行する会社案内のパンフレットの撮影。だから、スーツで来てほしい。撮影場所は、日本町。ここまでは、事前の連絡でなんとか理解できました。が、問題は撮影。こういう感じかな?とポーズをとります。それに対して、細かな指示がくるのですが、その英語が聞き取れない!・・・よしんば聞き返したとて、二回目で聞き取れる保証もありません。こうなったら頼れるのは、己の勘。きっと彼らは、この目線、この手の動きを求めているのでは?と、動かしてみる。とりあえず、色々なパターンで動いてみる。

 どうだ!ヘタな鉄砲も数撃ちゃ当たる作戦だ!

 実は英語の壁は、これだけではありませんでした。アメリカでモデルなどの仕事をする時には、必ず契約書を交わします。え、こんなに?と驚くほど、たくさんの書類があります。・・・

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 と、言いましたが、読みません。読まないのではなく、読めません。最初の頃、ちゃんと一言一句確認しなきゃと電子辞書片手に読み始めました。が、そんなことをしていたら、夜が明ける。というか、また夜がきて三日ほどかかります。

 私はアッサリ諦めました。ここは性善説に立とうではないか、こんな私を騙して何になる?あの目は、人を騙す人の目ではない!と、自分に言い聞かせ、サイン。今から思えば怖いことをしていたと思いますが、幸いにもトラブルになったことはありませんでした。