わたしの居場所

わたしの居場所

 こんな風に生きてる方々がいるんだな、と心強く思う内容でした。

「わたしの居場所」というテーマで新聞に連載された記事を集めた本です。

 

P114

 深い緑に包まれた約9千平方メートルの広大な敷地に、木をたたく軽妙なリズムがこだまする。思い思いに土をこねたり、色とりどりの刺しゅうをしたり。作業に打ち込む利用者たちの表情は、みな柔和で、どこか誇らしげに見える。

 鹿児島市郊外の住宅地にある知的障害者支援施設「しょうぶ学園」。一人一人が持つ独創性や感性を、健常者の論理で矯正することなく、そのまま受け入れて生かし、木工や絵画などのエネルギーあふれるものづくりに取り組んでいる。

 幅2メートルほどの大きな白い布地に、鵜木二三子(46)がフェルトペンで彩色を施していく。筆遣いに迷いはなく、あっという間に鮮やかな色で埋め尽くした。近くに立てかけられた絵画の中では、多くの人が大きな瞳を輝かせている。「絵を描いている時間が一番好き」。まぶしい笑みがこぼれた。

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 学園での暮らしはどうですかと記者が鵜木に尋ねると、「私は幸せだよ。お兄さんは?」。よどみなく答え、まっすぐなまなざしで、こちらを見つめた。

 現在の障害者福祉は、できないことをできるようにすることに焦点を合わせすぎていると、福森は考える。

「本当の意味での自立とは、健常者の社会に障害者を組み込むことではなく、自己実現に向かうことではないか。好きなこと、やりたいことを一緒に見つけて、環境を整えることが、自立支援の8割を占める」

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 しょうぶ学園は1973年、福森の両親が開設した。当初は自立支援の一環として、鹿児島県・奄美大島特産の大島紬や竹細工製造、食品加工の下請けを担っていた。

 福森は東京の大学を卒業後、・・・83年に学園に就職。自ら木工に携わる工房を立ち上げた。・・・

 独学で習得した作り方を利用者に教え、家具などの商品を一緒に作った。だが、与えられた下請け作業や、生産性を求められる仕事をこなす姿に、違和感を覚えるようになる。

 利用者が木材に付けてしまった傷を装飾と捉え、食器やお盆に仕上げると、ぬくもりのある唯一無二の作品が生まれた。評価されることを求めずに描いた本能むき出しの絵は、見る者の心を揺さぶった。

「社会的な価値や称賛を目的としない、純粋な表現行為こそが、ものづくりではないか。その手助けをしよう」

 2003年に施設長に就任し、ものづくりを学園の活動の柱に据えた。・・・

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 自宅やグループホームから通園する人を含めると、学園には現在、160人ほどが集う。創設から半世紀近くが過ぎ、利用者同士が新たな家庭を築いたり、本人の希望で生涯を学園で閉じたりするケースも少なくない。

 昨年、未就学児の発達支援や、小学生から高校生までの放課後デイサービスを行う施設を新設するなど、幅広い世代の居場所づくりを続けている。

「SHOBU  STYLE」と総称される施設群は、地域に開かれ、入り口に門や扉はない。利用者が接客や調理を担当するカフェ、パン屋、そば屋も併設。週末には家族連れやカップルが訪れ、園内を散策したり、ロバや羊が傍らで過ごす芝生に腰を下ろしてくつろいだりしている。

 福森は願う。「ありのままでいられるところは、障害の有無にかかわらず心地よい場所。そんな社会になればいいのに」