考えないヒント

考えないヒント―アイデアはこうして生まれる (幻冬舎新書)

 タイトルを見て、無になるとか瞑想とか、そういうジャンルの本かと思ったら、小山薫堂さんの発想術の本でした。面白かったです。

 

P26

 僕は常に楽観主義者です。

 人生って、選択の連続ですよね。だから迷ったり、何かうまくいかないことがあると、「これでよかったのか」と後悔しがちなんですが、僕は、どんなに失敗しても、どんなに大変なことがあっても、これが最善の道だと思うんです。

 防衛大学校に落ちたときも、はじめは「うわーっ、どうしよう」と焦りましたが、すぐに「あ、よかった」と思いました。「ここに行ってたら大変なことになったかも」と気持ちを切り替えることができた。

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 昔、買ったばかりのアウディを友だちから借りて、一週間目に正面衝突をして車が大破して、ほぼ廃車状態になったことがありました。でもそのときも、ああ申し訳ないことしたと思いながら、「もしここでぶつかっていなかったら、隣の信号で、誰か人をひいてたかもしれない。ここでぶつかってよかったなあ」と思ったんです。

 それぐらいいつも、今、自分が選んでいる道の先には最良の未来があるって思うようにしている。

 これはうちのオヤジから学んだことです。オヤジは、

「人生はすべていいほうに、いいほうに、向かっているんだよ」

 と言うのが口ぐせです。ポジティブ・シンキングなんていう言葉がまだないうちから、オヤジは超ポジティブ・シンキングなんです。

 ウチのオヤジはちょっと変わった人間で、教育方針もユニークでした。僕はオヤジからかなり影響を受けています。

 

P78

 ・・・うちのオヤジの教育方針はほんとうに変わっていました。

 たとえば、僕は小学校五年生のときから、月額六百円のお小遣いを、銀行振込でもらっていました。ちょうど、キャッシュカードが普及し始めたころです。オヤジが、

「これからは絶対カード社会になるから、持っておけ」

 と言って、肥後銀行のキャッシュカードをつくってくれた。通帳は親が持っていて、僕はキャッシュカードだけ。だから振り込みとはいっても、親のほうに手数料はかからない。

 でも、六百円もらってもおろせないんです。キャッシュディスペンサーでおろせるのは千円以上。だから二ヵ月に一回しかおろせない。

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 それからうちのオヤジは、お年玉をくれるとき、わざと百円札でくれたりする。一万円札を一枚もらうよりも、百円札を束でもらったほうがうれしいだろうと言ってそうするんです。もう少し大きくなってからは、十万円金貨一枚ということもありました。

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 オヤジが僕にさせたことのなかで、一番印象に残っているのは、小学生のとき、一人で東京の親戚の家まで旅行をさせられたことです。小学生が一人で天草から東京まで出ていくなんて、怖いに決まってますよね。そう言ったら、

「お前、日本語読める?」

「読めるよ」

「話せる?」

「うん、話せるよ」

「聞ける?」

「聞けるよ」

「そうしたら、わからなくなったら聞けばいいんだし、標識を読めばいいんだし、質問すればいいんだし。何で迷子になるの。お前」

 と言われた。そうか、確かに迷子にはならないなあと納得させられ、実際行ってみたら、やっぱり迷子にはならなかった。

 それからは、一人でいろいろなところに行くのが、怖くなくなりました。僕の楽観主義的な性格はこうやってつくられていったんです。