考え方のバランス

日本の医療の不都合な真実 コロナ禍で見えた「世界最高レベルの医療」の裏側 (幻冬舎新書)

 

 ほんとうに色々な考え方があり、正解はわかりませんが、色々な考え方を知っておくことが大事かなと思いました。

 

P212

 本当に残念なことですが、人はふとしたことで命を落とすものです。これだけ医学が進歩した時代にあっても、助けられない命は無数にあります。

 もちろん、助けられる命は全力で助けることが医療であり、医師です。しかしそれでも、リスクは決してゼロにはなりません。なぜなら、繰り返しますが人は必ず死ぬからです。むしろ、第2章「人はウイルスとは戦えない」で述べたように、リスクゼロを追求すべきではない、と言ってもいいでしょう。

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 新型コロナによる恐怖と医療従事者による「ゼロリスク」の先導は、世界中の経済を止め、生活を破綻し、人々は自らカゴの中に入ろうとしているように見えます。・・・

 それでは得るものに比べて失うものが大きすぎはしないでしょうか。バランスが圧倒的に悪すぎはしないでしょうか。

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 ・・・本書を執筆したのは2020年7月から8月にかけてで、出版されるのは9月。執筆時点での最新データに基づいていますが、今後、事態がどう変化するかはわかりません。

 そこは正直に申し上げて不安なところではあるのですが、今後も大きなトレンドは変わらない、少なくとも、今後の日本に「欧米並み」のコロナ被害が来襲することはまずないと予測するのが妥当だと私は考えています。

 それが正しいのかそうでないのか。その点は、読者のみなさまのご判断に委ねます。

 ただ、・・・繰り返しになりますが、本書で私が大切にしてきたのは、個々の予測が正しいかどうかということ以上に、「新型コロナ及びその他医療業界全体のさまざまなデータを事実としてしっかり認識し、それらをマクロな視点で評価・分析すること」です。・・・

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 私がかつて勤務した夕張でも、現在医師として仕事をしている鹿児島でも、・・・一人ひとりのおじいちゃん、おばあちゃんと、お互いに腹を割って、医師としてではなく一人の人間として対峙すれば、みな「難しいかもしれないけど、最後まで家にいたい」と言います。

 その裏には、「人間はいつか死ぬのだから、それまでは誰からの制約も受けずに好きに生きていたい」という思いがあります。新型コロナの感染リスクをゼロにしようとして、この願いを奪うのが医療の仕事であってはならないと思います。