心理療法について

生きるとは、自分の物語をつくること

博士が愛した数式」に感激したという河合隼雄さんと、作者の小川洋子さんの対談本です。

 改めて心理療法の基本を肝に銘じるような感覚になる本でした。

 今更ですが、こんな大変な仕事だって知らなかったから始められて今に至るなぁと・・・そして「今の器量やったら仕方ない」段階なのだなぁと自覚できました(;^_^A

 

P15

小川 私、先生のご本の中で印象深かったことがあるんです。京都の国立博物館文化財を修繕する係の方が、例えば布の修理をする時に、後から新しい布を足す場合、その新しい布が古い布より強いと却って傷つけることになる。修繕するものとされるものの力関係に差があるといけないとおっしゃっているんです。

 

河合 そうです。それは非常に大事なことで、だいたい人を助けに行く人はね、強い人が多いんです。

 

小川 使命感に燃えてね。

 

河合 そうするとね、助けられる方はたまったもんじゃないんです。そういう時にスッと相手と同じ力になるというのは、やっぱり専門的に訓練されないと無理ですね。我々のような仕事は、どんな人が来られても、その人と同じ強さでこっちも座ってなきゃいかんわけですよ。年寄りの方もいれば子供もいる。いろんな人が来られますからね。

 

P54

小川 患者さんが治っていく時には、何か「ものすごくうまいこと」が起こるということを、お書きになっていらっしゃいました。

 

河合 そうなんです。・・・

 ある時、治療がうまくいったことをしゃべったら、「うまくいくはずや、偶然がいっぱい起こってるやないか」って言われました。そして「ここまで偶然が起こるのは、やっぱり河合さんが上手いからやろうな」と言われました。でも僕は何もしていない。

 ・・・

 そういうことを起こしてくれる「場」というものがあると思いますね。・・・

 ・・・

小川 その治る場に必要な、空気を、水を、先生が患者さんに供給されたということですよね。

 

河合 それがわからないうちは、どうしても治そうと思って張り切るから疲れますね。その人のためを思って何かしようとするけれど、結果は良くないことが多い。でも、そういう時も越してこないと駄目なんでしょうね。初めから今みたいになれといっても無理で、やっぱり一生懸命治そうと思ったり、ウロチョロしたりする時が必要なんだと思います。

 若い頃、不登校の子に自転車で会いに行った時に、こんなことせんでもええ人は何もせんでええんやけど、今の僕の器量やったら仕方ない、そう思ったのを覚えています。