月を見てパンを焼く

月を見てパンを焼く 丹波の山奥に5年先まで予約の取れないパン屋が生まれた理由

タイトルにひかれて手に取りました。

リクルートに勤めた後、低温長時間発酵というパン作りを「シニフィアン シニフィエ」というお店で学び、今は丹波で通信販売専門のパン屋さんをしているという方の本。

ドイツにも行ってパン作りを教わった時に、石臼でひいた小麦を前に

「今日は満月だから、小麦粉を数日は置かないといけないよ」

と職人さんから言われ、月の満ち欠けに合わせて農作物を育てる農法があることや、パン作りにおいては、発酵が進む速度が変わることなどを知ったそうです。

地元で採れたものを中心に、その時の材料でできるパンを焼く・・・何かを無理しない、自然に合わせていく感じが、いいな~と思いました。

 

P136

 26歳でパン職人として遅いスタートを切ったとき、すでに長い経験を積んでいる同僚たちを見て、「私は、なんて遠回りをしてしまったのだろう」と悔やんだこともありました。でも今になって、何ひとつ無駄じゃなかったのだと実感します。

 会社員をして本当によかったと思うことのひとつは、人のつながりが、自由な発想をくれたことです。

 会社に入って出会ったのは、いい意味で自己中心的で、自分に自信があって、それでいて自分の仕事が社会をよくしていると心から信じているような人ばかりでした。社内でも新しいプロジェクトが立ち上がることは日常茶飯事。さらっと退職して会社を立ち上げ、生計を立ててしまうような人も多くいました。

 一方の「シニフィアン シニフィエ」は、2~4人のメンバーと、1日12時間以上、同じ場所で日々同じ仕事をするという、会社員時代とは正反対の環境でした。

 社会の進んでいく方向を感じ取り、今までにない価値をつくり出していくビジネスの場と、パンづくりにとことん向かい合う修行の場。その両方を経験したから、

「社会を変えるような仕事は、私よりも適任の人がたくさんいる。私は私らしく、もっと小さくても日々の幸せをつくれたらいいな」

 と、どちらもすばらしい仕事だと思えるようになりました。

 どんな場所にも魅力的な人たちがいると思えたからこそ、

「通販という自由な形態で、そのとき出会った人となんでもやってみたらいい」

 という、「ヒヨリブロート」の価値観が生まれたのだと思っています。

 

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 私の人生は、本書を読んでいただいた方はすでにお気づきの通り、誰かが提案してくれたことに身をゆだねてみることで、たくさんの転機を迎えてきました。そういうときには、自分一人のエネルギー以上にがんばれるし、わくわくして新しい発想も生まれてきます。

 これはもしかすると、誰にでも当てはまることかもしれません。自分が思っている自分なんて、可能性の本当にひとかけらで、周りの人のほうが自分の客観的な価値や可能性がよく見えている、何気なくしてくれたアドバイスが、新しい道へと手を引いてくれるのです。