心技体の感性作品を求める

勝ちスイッチ

 フィギュアスケートの本をいくつか読む中で、メンタルが試合に影響する大きさを知り、驚いたところに、ボクシングの井上尚弥さんの本を見つけて読んでみました。

 ボクシングはメンタルなスポーツだと書いてあり、イメージが変わりました。

 

P25

 リングに命はかけない。・・・

 実は「命をかける」ボクシングは、僕が理想とするボクシングの対極に位置している。

 殴り合いにいくのだ。当然、本能も感情も覚悟もある。しかし、僕が求めているのは、そういう種類のボクシングではない。ルールのある競技のなかで、2本の腕だけを使って、最大限に、何ができて何を魅せられるのか。スポーツと割り切れるほど、綺麗な感情ではなく、表現は難しいが、情熱や殺気、そして冷静さ……その両方のバランスを操りながら、勝つためのデザインを描き、その作業を遂行していく。ボクシングの最高峰を突きつめたいのだ。スピード、テクニック、パワー、気力、ラウンドのコーディネート、そして、人智を超えた神業。僕は「打たさずに打つ」「パンチをもらわずに勝つ」究極の心技体の完成作品をそこに求めている。

 勝利へのデザインを僕は「作業」と呼んでいる。「ぶっ殺してやる」という怒りや憎悪の感情が、そこに入り込んでくると、数ミリ単位で計算し、神経を限界まで研ぎ澄まして完成させていく、その作業に狂いを生む。「ぶっ殺してやる」という種類のテンションは距離を測り、パンチが当たる位置、当たらない位置を瞬時に察知しながら、最善の方法を選択していくというインテリジェンスな作業の邪魔になるのだ。