兼高さんと曽野さん

わたくしたちの旅のかたち

 「聡明」「パワフル」という印象のお二人の、旅についての対談が収録された本です。アフリカの話など、お二人の逞しさがひしひしと感じられるお話が色々あって、興味深かったです。

 こちらは、海外では価値観が全然違うというたとえ話で、なんか日本て特殊だなと思ったところです。

 

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曽野 来るはずの電車は来ないし、車は必ず故障する(笑)。

 故障して修理屋さんを呼んだところで、待てど暮らせどあらわれないんです。真面目で勤勉な日本人にとって、旅は想定外の連続です。

 ブラジルには「ピアーダ」といって、自分たちの国を自虐したり風刺したりするおもしろい小話が数え切れないほどたくさんあります。どれも元々の作者は不明。口伝えに広がり、話の中身も話し手によって自由にどんどん変わっていくのだそうです。

 そのなかの一つに、こんなお話があります。

 

 あるブラジル人の男がこう言いました。

「今から日本人のお客さんを駅まで迎えに行かなくちゃ。でも、電車はどうせ二時間や三時間遅れて着くに決まってる。家を出るのはもっと後でいいや」と。

 ところが、男は考え直すんです。

「いや待てよ。もし万が一電車が時間通り着いたとしたら、日本人は迎えがないことに腹を立てるだろう。なにしろ、彼らの国には新幹線という時間ぴったりに走る素晴らしい乗り物があるというじゃないか。時間には厳しいはずだ」

 急いで駅へ行ってみると、なんと定刻通りに電車がホームに入ってきました。男は感動のあまり駅員に抱きついて言いました。

「我らがブラジルの電車もたいしたものだ。ちゃんと定刻通りに来るじゃないか!」

 すると駅員さんは、ムッとしてこう答えたのです。

「これは昨日着くはずの電車です」

 

 いいでしょう、こういうお話(笑)。自分たちの欠点を痛烈に批判しつつ、それでいて、どこかあたたかな人間賛歌の視点も感じられます。

 

兼高 日本人にとって「想定外」の出来事は大問題ですが、彼らは「想定外」を笑い飛ばしてしまうんですね。

 わたくしもアメリカ留学中に経験しました。友だちと一緒にラスベガスからロサンゼルスまで電車で帰ろうと駅に行ったら、もう午後なのに、朝到着するはずの電車さえまだ来ていなかった。それでも誰もイライラしていないんです。そして、やっと電車が来たときは、待たされたことも忘れて「やぁ、来た来た!」なんて手を叩いて喜んでいるじゃありませんか。

 ・・・

 

曽野 ・・・わたくしは、日本の新幹線の正確さは世界に冠たるものだと思っています。・・・

 ただ、同時に「いや、ちょっとくらい遅れたっていいじゃないか。死ぬわけじゃなし」などと平然としているようないい加減な人びとのことも、また愛してしまうのです。

 正確さや几帳面さだけを良しとするのではなく、のほほんとしてズッコケた部分も許す大らかさを持つと、日本人も生きるのがもっとラクになるのではないかしら。

 ・・・

 ・・・いつだったか、上智大学の神父さまとポーランドへ行ったことがあります。そしたらその神父さま、そもそもご出身がポーランドなのに、電車やバスを待つたびに「遅い!」「まだですか!」と怒っていらっしゃるの。「神父さま、すっかり日本人のようになってしまいましたね」と言って大笑いしましたが、それでは疲れてしまいます。