人間にも種類がある

記憶喪失になったぼくが見た世界 (朝日文庫)

 この感覚も新鮮でした・・・というか、固定観念というか、入力済みの固まっちゃってる知識って、私の頭には果てしなくあるな・・・という気持ちになりました。

 

P77

 人間って何ですかと友だちに聞く。すると面倒くさそうに、あちこちを指さして「あれも人間、おれも人間、こいつも人間、みんな人間。おまえだって同じ人間だ」と言った。同じと言うけれど、何が同じなんだ。ぼくと同じ人間なんて見つけられない。

 電車に乗っても、形はにているけれど、みんな大きさがちがう。細長い足の人もいれば、大きな顔の人もいる。背の低い人もいれば、高い人もいる。どこが同じなんだ。

 駅に止まると人が入れかわる。またあたらしい人が入ってきた。その人はずいぶん小さく、体はまんまるで、髪の毛の色がちがう。動きが遅くて、ゆっくりと進む。この人も、ぼくと同じ人間なのか。

 その人が電車の中を歩いていくと、髪の毛が長い人が立ち上がった。二人ともよろこんだ顔にかわった。

 だけど、電車を降りて右や左を見ても、ぼくと同じ人間は、どこにも見つからない。

 

P148

 体育館でバレーボールをしていると、となりに違った服を着ている人がいる。同じようにバレーボールをしているけれど、この人たちはどこから来たのだろう。確か、さっき着がえていた部屋にはいなかったはずだ。それに、動き方や話し声だって違うのに、みんなどうして何も言わないのだろう。

 授業が終わってトイレに行こうとすると、となりでバレーボールをしていた人が歩いていた。どこから来たのだろうと思っていると、その人は赤いマークのトイレに入っていく。

 家だとみんな同じトイレに行くのに、学校だと赤いマークのついたトイレには行ってはいけないと言われていた。だからいつも、青いマークのトイレに入っていたけれど、何かすごい秘密があるような気がしてきた。

 教室に戻って、すぐに友だちに、赤いマークのトイレのことを聞いた。すると、そこは女の子が入るためのトイレだと教えてくれる。女の子?あの人たちは人間ではなくて、女の子というのか。

 だけど友だちは「女の子も人間やぞ」と言ってくる。ぼくは「男の人間」なのだそうだ。なんだか複雑だ。