記憶喪失になったぼくが見た世界

記憶喪失になったぼくが見た世界 (朝日文庫)

 大学の通学途中、スクーターに乗っていて交通事故にあい、記憶をなくした方が、またひとつひとつこの世界を知っていく過程が書かれた本、とても興味深く読みました。

 こちらはどうもゲームセンターのクレーンゲームに出会ったときのことのようで、こんな風に見えたんだ・・・と、何か切なさを感じました。

 

P80

 にぎやかな音が聞こえてくる。たくさんの人が集まっている。中に入ると急に音がうるさくなって話し声も聞こえない。みんなここで何をしているのだろう。

 大きな箱があって、いろいろな色に光っている。その前で立っている人のそばに近づくと、その人の手に、あのキラキラ光る物があった。これからどうするのか。もっと近づくと、小さな細い穴に入れた。するといきなり、とても楽しそうな音が出てきた。

 その箱の中の物が、ヘンな動きをしたかと思うと、何かを持ち上げてもどってくる。ぼくの息が速くなる。何かが落ちる。見ると、箱の前に立っている人が、とてもかわいい物をもっている。あのキラキラ光る物は、こんな物にもなるのか。

 大きな箱の前に立つ。かわいい顔をしているのが、たくさんつまっている。下のやつが苦しそうだ。ぼくがもっている光る物をつかって、こいつらを外に出してやろう。

 キラキラ光る物を袋から出すと、大きな箱の穴に入れて、さっきの人のマネをして動かす。ヘンな形をしたぼうが、ヘンな動きをして下に落ちる。するとかわいい顔をしたやつを取ってもどってくる。はあはあと息が速くなる。ぼうが止まると、落ちる音がした。箱の下を開けると、あいつがいる!

 でも、中にのこったやつがみんなこっちを見ている。その目がかわいそう。助けてやらなくちゃ。

 何度もそいつらを出そうとするけれど、うまくいかない。ついにキラキラ光る物がなくなってしまった。だから今度はボロボロの色の物をつかってみた。

 でも、何回入れても箱の下からそのまま出てきてしまう。これだとだめなのか。やっぱりキラキラ光るやつはすごいんだ。

 もう、キップを買うぶんがのこっていない。これから、どうやって家へ帰ろうか。箱の中からとりだした、かわいいやつを両手で持ちながら考えた。