人生いろいろ・・・

違和感

 こんな人もいるのですね・・・びっくりでした。

 

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 かつて、芸人仲間にキリングセンスの萩原(正人)という男がいた。

 俺は格差とか貧困というと、必ずこいつを思い出すんだけど、要は売れない芸人でずっと貧乏だった。・・・そのくせ、酒ばっかり飲んでるやつだった。

 ある時、そんな萩原がB型肝炎を患う。肝臓がダメになってしまって、・・・静脈瘤破裂で吐血して病院に運ばれるんだけど、医者からは「あと1週間の命です」と余命宣告されるわけ。・・・そこから奇跡的に持ち直して、なんとか意識も取り戻した。

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 萩原には、幼稚園に通う子供がいたんだけど、日本の医師からは「小学校の入学式はかろうじて見れるけど、卒業式は見られませんからそのつもりで」と言われていた。いまの日本では法律が変わったから臓器移植の可能性があるんだけど、当時の事情としては、リアルな余命宣告ってやつだった。

 だから萩原は、アメリカでの臓器移植のために海を渡った。

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 ・・・日本人初の肝腎同時移植に成功して、やがて、日本に戻ってきた。

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 臓器移植が成功して、一命をとりとめた萩原は、当時の日本の状況などを考えると、幸運だったと思う。渡米当時から、奥さんも一緒にがんばっていたし、日本に戻ってからは書籍を出すなど、萩原自身も仕事を再開していた。

 でもね、あいつの貧乏と不幸な物語は続くわけ(笑)。

 まず、キリングセンスの相方から解散を切り出される。しょうがないっていうんで、ピン芸人の活動とライターの仕事を両立しながら続けていたんだけど、そうこうしているうちに奥さんがバイト先で浮気して逃げてしまう。せっかく移植は成功したっていうのに、相方にも逃げられ、嫁さんにも逃げられるって、お前はどこまで不幸なんだよって俺は笑った。こういう場面で笑ってしまうのは、芸人仲間独特な感覚かもしれないけど、もはや笑っちゃうしかないぐらいの不幸っぷり。

 ただ、萩原という男は、不思議な運だけは持っているようで、嫁さんに逃げられたあとで再婚をしている。その相手というのが、臓器移植後に出版した書籍のサイン会に列を作っていたなかで唯一の女性で、昔からただひとりのキリングセンスの女性ファンだった。しかも再婚のきっかけが偶然にもほどがあって、サイン会からしばらくたったあとで、萩原が阿佐ヶ谷を歩いていたら「萩ちゃん!」と呼ばれて振り向いたらその子だったっていうね(笑)。

 そんなわけで、なんだかんだで再婚したんだけど、その新しい奥さんというのができた人で、萩原の移植した腎臓が耐久年数的にダメになると、いろいろと調べて自分の腎臓の一部を旦那にあげることにする。その手術も成功して萩原はいまでもピンピンしている。