使う言葉で変わること

放っておいても明日は来る― 就職しないで生きる9つの方法

 中国語だと好き勝手言えちゃうって、言葉って面白いです。

 こちらはタイで多国籍バンドをやっていたモモコモーションさんとのお話です。

 

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高野 モモコさんはサンフランシスコにいたから、タイに行った時点で英語はもう話せるわけですよね。タイに行っても英語で暮らしてたんですか。

モモコ タイ語がわからなくて苦労しました。・・・途中で、それだけじゃ心の通い合う会話ができないって気づいて、私もタイ語を話そうと決意して話すようになりましたね。

高野 勉強したんですか。

モモコ 私は勉強が苦手なので、学校は一カ月くらいしか通ってないです。・・・あとは実践あるのみ。

 ・・・

高野 素晴らしいですね。その結果、英語で話しているときとタイ語で話しているときで、タイ人の言うこととか態度は変わりましたか。

モモコ さっき話した日本人とタイ人が感覚的に似てるってことなんですけど、それが言葉にも表れていて、一例を挙げると「遠慮」って言葉が英語にはないんですよ。

高野 あっ、そうですね。

モモコ ヘジテイトとかシャイって言い方はできるんだけど、でもいわゆる気を遣って遠慮するっていうのとは、ちょっと違うじゃないですか。・・・それがタイ語ではグレンチャイって、言葉があるんですよ。そういうひとつひとつが似ていることによって、ある程度日本語の感覚で喋れるって気づきました。

高野 僕は言語によって全然態度が変わるんですよ。英語だと言いたいこと言うし、一番ひどいのは中国語を使っているときで、好き勝手言っちゃう、というか言えるようになっちゃう。

モモコ わかります。私も上海にライブに行ったことがあるんですけど、オフの時間に買い物に行ったらみんな怒鳴り合っていて交渉なんてとてもできない。でもどうしても欲しいものがあったから、私も怒ってみようかなって(笑)。物を投げる勢いで怒ったら、上海の人がニッコリ笑うようになったんですよ。

 ・・・

高野 いろんな国の人といるときは気持ちを切り替えるんですか。

モモコ 私のいる状況っていつもいろんな国の人が混じり合っているんですよ。バンドにしてもイギリス人とタイ人と日本人の私ですから、ライブのときは絶対にトラブルになる。そういうときイギリス人は文句や不満をガーンと言うんで怒っているように見えますけど、西洋の価値観では物事をちゃんと伝えるためにしているんですね。一方でタイ人は人前で怒るっていうのはすごく失礼なことで、トーンを落として柔らかく言わないといけなかったりする。その辺で両方の文化を共有している私が、間に立つことが多いですね。・・・そういうときにどこでも通用するのは、まず、ニコっと笑う(笑)。

 ・・・

高野 タイでは「冷静に、冷たい心で」って諭しますよね。

 ・・・

モモコ ・・・日本人は・・・摩擦しないように、仲良く生きていくための工夫をすごくしていると思うんですよ。・・・予想してトラブルを回避できるのはすごくいい部分である反面、人と人が交わって何かをつくっていくときってトラブルが必要じゃないですか。コミュニケーションのために。そういう機会が少ないっていうのが、実はマイナスかもしれない。