タイトルのとおり、大事なことに気づける話や名言がてんこもりの本でした。
この話も印象的でした。
P102
ある若いコメディアンがお笑いの劇団に入って、3か月が過ぎた頃の話です。
・・・
・・・ある日、劇団の演出家からこんな言葉をもらってしまいます。
「あのなあ、コメディアンをこれまでたくさん見てきたけど、早い奴なら1週間、遅い奴でも1か月もするとコメディアンらしい笑いのセンスが身につくものなんだ。珍しいよ、おまえは。3か月経ってもコメディアンらしい気配が漂ってこないもんな。辞めるなら早い方がいい。お前はコメディアンには向いてないと思う」
改めて言われるまでもなく、すっかり自信を失っていた彼。
素直な性格も手伝って、この言葉に納得し、夢をあきらめて、その月いっぱいで劇団を辞める決心をします。
そして、劇団の座長格である、自分の師匠にその気持ちを報告しに行ったのです。
彼の報告を聞いていた師匠。
話が終わると、こう言いました。
「で、おまえの気持ちはどうなんだ?本当に辞めたいのか?」
その問いに、彼は「僕は、あと2~3か月は頑張ってみてから辞めたいんですけど…」と正直な気持ちを答えます。
すると、その言葉を聞いた師匠。
「そうか、ほんとはおまえ、辞めたくないんだな。よし、じゃあそこで待ってろ」
と言うと、パッとその場からいなくなってしまった。
そして、5分もしないうちに戻って来ると、「おまえ、続けてろ!」と一言。
それで結局、彼は劇団を辞めない事になったのです。
・・・
後日、自分に「辞めてしまえ」と言った演出家に、あの日、何があったのかを聞いてみました。
・・・
師匠は演出家にこう言って説得したのです。
「あいつをクビにしないでくれ!才能はないけど『はい~っ』ってあんなに気持ちのいい返事をする奴はいない。だからあの返事だけでここに置いてやってくれ!」
師匠の言葉を彼に伝えた演出家は、続けてこう言いました。
「この世界で大事なのは、うまいとかへたじゃない。おまえのようなドンケツを、劇場のトップが『辞めさせないでくれ!』って言いにきた。こういうのが芸の世界では大事なんだ。あいつを応援したい。助けたいって師匠に思わせたんだから、おまえはきっと一人前になるよ。1人でも応援してくれる人がいたら辞めるな。生涯辞めるんじゃないぞ!」
彼は、その言葉を聞いて、その場でうれし泣きをしました。
・・・
この時、泣きながら恩返しを誓った彼。
名前を萩本欽一といいます。
そう。あの欽ちゃんです。
・・・
欽ちゃんが家庭の事情で劇団を去る時、劇団員たちからの餞別は、なんと、欽ちゃんの当時の給料の1年分にもなったそうです。
師匠は、こう言って欽ちゃんに餞別を渡しました。
「すごいだろ。おまえが金のために休むって話したら、みんなが500円ずつを出してくれた。そうじのおばちゃんも出したんだぞ。『欽ちゃんが朝早くきて、舞台で大きな声を出す練習をしてたのを見てたから、頑張って欲しい』ってよ」
欽ちゃんは、その著書の中で、「人生の中で、この日が一番泣いたんじゃないかな」と語っています。