好奇心

人間の未来 AIの未来

山中さんのこの好奇心、面白いです。

 

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山中 ・・・僕は一ヵ月に一回、グラッドストーン研究所のあるサンフランシスコと日本を往復しているので、時差ボケ解消のため、いろいろな睡眠薬を飲んでいます。

 オレキシンという覚醒作用を持つ物質があって、筑波大学の柳沢正史先生が発見しました。そのオレキシンを抑制する睡眠薬が日本でだけ販売されているんです。普通の睡眠薬は眠くなる成分を増やすけれど、その薬は目を覚ます物質を抑える。でも副作用の項目に「悪夢」と書いてあるんです。僕はそういうのを見ると、やっぱり試したくなる。

 悪夢というから、ターミネーターが襲ってくるようなとんでもない悪夢を見るのかなと思ったら、マラソンのスタート前にトイレがいっぱいで使えないとか、部下に逆切れされて怒られるとか、ものすごく現実的なんです(笑)。これこそバーチャルリアリティです。

 

羽生 ははは、普通、悪夢を見ると、目が覚めるじゃないですか。これは覚めない悪夢なんですね。

 

山中 そんな夢は普段でも見ているけれども、明らかに頻度が増えますね。どういうメカニズムかわからないけれど、薬は夢まで変えるんですね。今日はどんなリアルな悪夢を見るのかと思うと、ちょっと飲むのが憂鬱になるんですけど。

 

羽生 確かに悪夢を必ず見るとわかって眠りにつくのは嫌ですね。逆にいい夢を見るような薬があったら、眠るのが楽しみになるんでしょうけど。

 

山中 確か星新一ショートショートにありました。昏睡状態にある男性が現実世界には超美人の妻や立派な家が待っているという夢を見て、「これは絶対生きなければ」と蘇生する。でも目を覚ましたら、待っていた現実は超恐妻と巨額の借金。生きる希望を持たせるために薬を飲まされていた、というオチでした。

 

羽生 要するに脳内物質で楽しいか悲しいかが決まるんですね。映画『マトリックス』は、過酷な現実世界と安逸な夢の世界のどちらを選ぶか、という内容でした。