ミスをしたときは

羽生善治 闘う頭脳 (文春文庫)

 ミスをしたときの気持ちの持ち方、日常生活にも参考になると思いました。

 

P92

 ミスはしないに越したことはないのですが、それでもミスはしてしまいます。大事なのはミスをした後、ミスを重ねないことだと思っています。しかし、実際問題としては、ミスをした後にミスを重ねる可能性が高くなります。どうしてかと言うと、ミスをしたことによる動揺があるからで、なぜこのようなミスをしたのだろうという思いや、早くミスを取り返したいという焦りもあるからです。また、ミスをしたことで次の指し手の難易度が上がっていることも、ミスを重ねる原因です。ミスをする前は順調に、無難に局面が進んでいて、正しい選択が容易にできるという良い循環が続いて行くわけです。しかしそうした中でミスをしてしまうと、それまでに築いてきた蓄積や分かりやすい状況が一気に消えてしまいます。ですからミスをした後は、非常に複雑で混沌として難易度が高く、どこから手を着けたら良いかわからない状況になっているわけです。

 このようにミスを重ねないためには、一息つくということも大事で、例えばちょっとお茶を飲むとか、外の景色を眺めるとか、僅かな時間で良いから一息つくことで、元の冷静さを取り戻すことができます。

 もう一つはその瞬間に集中するということです。当面はミスをしてしまった局面を何とかして挽回することに集中します。そして、その瞬間に集中する時には、初めてその場面を見たかのように考えることが必要です。そうしないとこれまでの指し手の連続性か継続性の上に考えてしまうからです。前はあんなに優勢だったのにとか、あんなに駒があったのにとか、幾ら考えても、そうしたことは今の局面とは全く関係がなくなっています。ですから初めてその場面を見た時に、何がベストなのかを考えていくことに集中していくことを大切にしています。