自分も大丈夫

「あの世」の準備、できていますか?

死は怖くないというこの話、印象的でした。

 

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矢作 ・・・印象に残っているのは、私も歯医者って、比較的行かずにすんでたほうなんだけど、子どもの頃に乳歯を抜くために、一度だけ連れて行かれたことがあって、めったに行かないからイヤなんですよ。イヤだなっていうのが態度に出ていたんでしょうね。親に連れられて来てるから、殊勝にこうやってるんだけど。先生が何を言ったかっていうと、4歳くらいの女の子を私のところに連れてきて、「この子、さっき終わったとこ」って、もうニコニコしてるんですよ。それで「ああ、そうなんだ」と思って。それって死ぬのも一緒でしょ。自分の大切な人が死ねるんだったら、この俺が死ねないわけがないと思えるようになるじゃないですか。人間にとって、類推はすごく重要で、案外、想像力が利かないんですよ、不連続なものに対しては。だから、この人はできたんだというのがわかると、すごく励みになるんですよ。

田口 自分にもできる、と類推できるようになるから。

矢作 そう。私も、小学校の3年生のときに、交通事故に遭って、この子は死ぬかもしれないという話を聞いたときも、それより前に、自分の知ってる人が死んでるから、なんとなく、大丈夫と思えたのかなと。類推できる体験は、すごく重要だと思うんです。僕が見ている限り、死ぬときに、子どもは比較的怖がらないように思います。たぶん、大人のほうが余計な知恵がついちゃって、いけないんでしょうね。

田口 いろんなことを考えてしまいますから。

・・・

矢作 そうですよね。執着があると、あれをしないといけないとか、まだ子どもが小さいとか、ローンが残っているとか、こっちの視点で考えちゃうからでしょうね。だからものすごく開き直って、「あっち逝ったら、こんなに好きなこともできるし、楽しみにしよう」と思ったら、そうはならないわけですもんね。だから亡くなるとわかった時点で、発想を切り替えてもいいんでしょうけどね。だってもうしょうがないですし。

・・・

田口 それで先生は、どんなふうに死ぬおつもりですか。普通は決められないけれど、先生は心づもりがありそうだから(笑)

矢作 だからポックリですよ。亡くなる直前まで元気でいるようにして、最期はコロッと逝くように(笑)。

田口 ぴんぴんころりを望んでいる人は相当多いと思うんですけど、望めばできるんですか?

・・・

矢作 自分の思い込みでなるから大丈夫、と思っているんですけど。