大変なのにつらそうに見えない

宇宙飛行士の仕事力 日経プレミアシリーズ

ここも、すごいな〜と思いました。

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 宇宙飛行士の向井千秋さんと机を並べ一緒に仕事をしていた、JAXAの井上夏彦さんは、向井さんのことを「メンタル面の強さという点で本当にすごいと思います」と言う。
 目標に向かって突き進む。コレと決めたらやり抜く。頑固ではないが、決して諦めない。ギリギリまで可能になるルートを探す。困難を乗り越えるだけではなく、他の道はないか柔軟に知恵を働かせる。
「組織を維持するのは大変なはずですが、『何とかなるわよ』というポジティブな明るさがありますよね。新しいプロジェクトを始めるときに『前例がないから難しいのでは』と言っても、自らいろんな人に当たってみて何とか道筋を探す。説得力もある。変な遠慮はしないでずばっと言うところは、宇宙飛行士生活で培ってきたものかもしれないですね」
 日本人飛行士たちに共通して感じるのは、「メンタル面の強さ」だ。
 目標に対する強い意志があり、目標を達成するための地道な努力を惜しまない(だがその努力は当然だと思っているから、決して大変そうに見せない)。
 そして「ポジティブで悩みをひきずらない」ことも共通点としてあげられる。もちろん、人間だから悩むのは当然だ。だけど悩みを解決するために、自分ができることとできないことを整理して、できることに最大限の力を注いだら、あとは「やるだけやった」と気持ちを切り替える。
 訓練は失敗の連続で、いちいち落ち込んでいたら次の日に影響する。悪かった点を反省したら、好きなことをするなど気分転換して寝てしまう。そして翌朝は新しい気持ちで訓練に臨む。オンオフの切り替えはみな、上手だ。「楽しみ上手」といってもいい。
 ISSという密室で少人数で過ごすわけだから、「一緒にいて暗くなる人」ではなく「一緒に楽しい時間を過ごせる人」かどうかという点が選抜時の面接でも見られる。別にジョークばかり連発する必要はない。疲れたり忙しかったりしてもイライラせずに、メンバーに配慮して会話ができること、つまり一喜一憂せず、安定した自分を保っていられるかどうかだ。
 野口聡一さんも、宇宙飛行士の選抜試験で優秀な人はたくさんいたが、「自分を見失わず、優秀な世界の飛行士の中でも生き残れるタフさ、ストレスに過敏にならない打たれ強さが評価されて、自分が選ばれたのかもしれない」とも言っている。