つづきです

ハーモニーの幸せ (角川文庫)

加藤清さんとのお話、つづきです。
「加藤先生のお話は、まるで神話みたいで」と書いてありましたが、たしかにそんな感じです。
久しぶりにまた、加藤先生の本を読み返したくなりました。

P47
「あなたは、なにか悪いことをしたことはありますか?」
 ・・・
「は?悪いことですか?ええと、はい、たくさんあります。子供のころに隣の子のおもちゃを家にこっそり持ち帰ってしまったり……」
 いやいや、もっと悪いことたくさんしてるけど、そんなことここで言えるわけないじゃないか。ああ、私ってすごく悪い奴だったんだなあ……。もしかしてこの気持ちも加藤先生にはお見通しだったりして、と怖くなる。
「あなたは、悪いことをしたときどう思いますか?」
 ・・・
「え?それはその、もちろん罪悪感を感じます、いまでも思い出すと苦しいこともたくさんあるし……」
 私が暗い顔をすると、先生もつられて暗い顔をする。
「それはいかんね」
「は?」
「私が言っているのは罪悪感を感じるような悪いことじゃなくて、相手に感謝されるような悪いことです。そういう悪いことをたくさんすればいいんです。一日一悪です。毎日悪いことをしなさい」
 ・・・相手に感謝されるような悪いことをしろという。
 それとカルマが熟することと何か関係があるんだろうか?ますますわからない。
「いったい、相手に感謝されるような悪いことって、どんなことでしょうか?」
 私は素直に聞いた。すると先生は「ふうむ」と考えてから、こんな話をし始めた。
「私が子供のころ、誰もがとても貧しい時代に、一人だけ白米のお弁当をもって来る子供がいましてね、もう、周りの子供たちはいつも腹がへっているし、その弁当がうらやましくてうらやましくて、たまらんのですわ。それで、ある日、私がその弁当を黙って食べました」
「え?人の弁当をですか?」
「はい」
「全部?」
「はい。とてもおいしかったです」
「そ、それはやっぱり悪いことなのでは?」
「その子も自分一人だけ白米の弁当を食べていて、申し訳ないなあと思っていたわけですよ。心のなかで、みんなが飢えているときに自分だけこんなものを食べていいのだろうか、って思っていたわけですよ。だから、私、おいしくいただきました」
 加藤先生は真面目な顔で私を見て、それからにっこり笑った。
「悪いことをたくさんしなさい。道徳的なことや、理にかなったことではなくて、悪いことをしなさい」