あかんぼがいる

詩と死をむすぶもの 詩人と医師の往復書簡 (朝日文庫)

谷川俊太郎さんの詩がいくつも載っていました。
ああ、なんだかいいな、と感じた詩です。

P172
あかんぼがいる

いつもの新年とどこかちがうと思ったら
今年はあかんぼがいる

あかんぼがあくびする
びっくりする
あかんぼがしゃっくりする
ほとほと感心する

あかんぼは私の子の子だから
よく考えてみると孫である
つまり私は祖父というものである
祖父というものは
もっと立派なものかと思っていたが 
そうではないと分かった

あかんぼがあらぬ方を見て眉をしかめる
へどもどする
何か落ち度があったのではないか
私に限らずおとなの世界は落ち度だらけである

ときどきあかんぼが笑ってくれると
安心する 
ようし見てろ
おれだって立派なよぼよぼじいさんになってみせるぞ

あかんぼよ
お前さんは何になるのか 
妖女になるのか貞女になるのか
それとも烈女になるのか天女になるのか
どれも今ははやらない

だがお前さんもいつかはばあさんになる
それは信じられぬほどすばらしいこと

うそだと思ったら
ずうっと生きてってごらん
うろたえたり居直ったり
げらげら笑ったりめそめそ泣いたり 
ぼんやりしたりしゃかりきになったり

そのちっちゃなおっぱいがふくらんで
まあるくなってぴちぴちになって
やがてゆっくりしぼむまで