詩と死をむすぶもの

詩と死をむすぶもの 詩人と医師の往復書簡 (朝日文庫)

谷川俊太郎さんと徳永進さんの往復書簡を読みました。
読んでいると、色々と連想が広がっていく本でした。
こちらは、徳永進さんの「はじめに」の一部です。

P3
 臨床ってすごい空間だと今も思う。もう見慣れ、もう見飽きたかと思われそうだが、見慣れたり、見飽きたりすることはない。「初めて性」は34年が経ってもあり続ける。初めての患者さん、初めての家族、初めての病気、初めてのがん、初めての経過、初めての出来事、初めての感情、初めての感謝、初めての怒り。「初めて性」は枯渇することはない。臨床は「初めて性」の泉。どの患者さんも世界で唯一の人、初めての患者さん。DNA鑑定ではなく、臨床そのものがそう教える。
 初めての患者さんに対峙したり、その傍らにいると、思いもよらぬ小道に案内されていく。初めて歩く道。その道の魅力が34年前の臨床のスタートをまるで昨日のことのように思わせるのだろう。小道を歩きながら考えた。老いた人の死と若い人の死、違わない。信仰に支えられ死を受け容れた人と、「くやしい」と叫びながら世を去る人、違わない。温かい家族に取り囲まれて亡くなる人と、人一人いない病室で亡くなる人、違わない。生きてること、死ぬこと、うーん、違わない。小さなことは沢山違うが、一番大切なことは、違わない。みな同じ。最近になって、そんな気がする。