一歩一歩

9番目の音を探して 47歳からのニューヨークジャズ留学

弱音を吐いて、先生に励まされ、涙を流し・・・という時期のお話、励まされました。

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 去年の今頃はまだ、長い長いトンネルの中にいた。時間は1ミリも前へ進まなくて途方に暮れていた。しかし1年たって、今同じ季節を過ごす自分は、何を身につければいいのか少しだけ自分の頭で考えることを覚え始めた。
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 50歳が近づいて来て譜面もだんだん読みづらくなって来た。いわゆる老眼というやつが始まったのだ。日本にいるときは、ミッキーマウスのように年をとってはいけないのだとどこか思っているところがあった。そのうちに、「よいしょ!」と声をあげないとミッキーになれないときがあって、それでもミッキーはミッキーであり続けなければならないのだと自分に課していた。
 今20歳の同級生たちと同じ暮らしをして、アメリカの食べ物を食べて少し緩んだお腹に老眼、白髪もうんと増えたけれど、もしかして人生はここからじゃないか。時間を取り戻そう。自分の音楽に向かうなにかが見え始めたような気がした。でも、それを掴もうとするとすぐに消えてしまう。しかし今はそれでもいい。目の焦点がぼやけて不服を言うよりも、別の目が開こうとしていることを幸せに思おう。
 亀はのろくても、亀にはのろいか速いかなんて思いはない。いつか自分自身のゴールが切れればそれでいい。そのゴールは決して速弾きピアニストではない。あと何年人生があるのかはわからないが、これからは自分自身に近づくことだけをやり続けよう。・・・