高野秀行さんの本、なにか視界が広がるというか、気楽になる感じがあって、また読んでみました。
「神に頼って走れ!」という自転車で東京から沖縄まで南下した旅の日記です。
ほんとはインドに謎の怪魚ウモッカを探しに行くはずが、数年前にやむをえず不法入国したかどで、渡航が許されない身となってしまい、それなら沖縄まで自転車(キタ2号)で南下しながら、道々出会う神様にインドに行けますようにとお祈りしようという計画でした。
ここは四万十川での一コマ。
P122
なんとか仕事が片付き、山田さんの予定も空いたので、ようやく念願の四万十カヌー下り。
「いやあ、初めてのカヌーが冬の四万十なんてかっこいいですね」と私が言ったら、
「え、おまえ、カヌーに乗ったこと、ないんか?」山田さん、本気でびっくり。
そりゃそうだ、「一緒にカヌーでナイル川を下りましょう」とか「ミャンマーのイラワジ川下りもいいですよ」と私がさんざん言っていたのだ。まさか、未体験者とは思わなかったんだろう。
でも、山田さんは大人(たいじん)。
「まあ、ええ。すぐ覚えるわ」
この辺のてきとうさが探検部のノリである。
二人乗りのインフレータブル・カヌー(空気を入れてふくらませるカヌー)に乗り込み、何の練習もなくスタート。
パドルの握り方と基本的な漕ぎ方を1分で教わったら、不器用な私にしては珍しく、すぐできた。
「おう、よくできとるな。大丈夫や」国内・国外を問わず、日本人で(もしかしたら世界中で)最もたくさん川を下った男・山田師匠からお墨付きが出た。
理由は簡単。カヌーのスピード感は自転車にそっくりなのだ。ちがいは上半身を使うか下半身を使うかぐらい。
焦らずたゆまず漕いでいれば、流れに乗る。
早瀬では宙にすっと浮くような感覚がたまらない。
「川はええなあ」最近すっかり耳になじんだ土佐弁でつぶやく。
川にはトラックが走っていない。川原にテントを張るのもたやすい。
ミャンマーのイラワジ川下りなんか最高だろう。川だけでなく、人もいい。
実は、去年、私たち二人は本気でイラワジ川下りを計画していた。ミャンマーで旅行会社を経営している友人に許可関係を調べてもらい、見積もりまで出してもらっていたくらいだ。それが「インドの謎の魚ウモッカ」の登場で、私が先輩に頭を下げてキャンセルさせてもらったのだ。
「来年こそ、イラワジ下り、やりましょう!」
新米カヌーイストは、高らかに宣言、私たちは終点である山田宅前に到着した
たった7キロの入門者コースを終えただけだが、それは半年前、初めてキタ2号に乗ったときの感激に酷似していた。
何か、新しいものが自分の中で始まる予感。
やりたいこと、やらねばいけないことが、どんどんたまっていく。
みーんな、遊びなんだけど。