夜に食べ過ぎやすい訳

ずる――?とごまかしの行動経済学 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

みんな思い当たりそうなお話。
ちなみにババとサーシャの実験↓というのは、7ケタの数字を覚えていなくてはいけないグループと2ケタの数字を覚えていればいいグループを作り、その状態でチョコケーキとフルーツのどちらか欲しい方を選んでもらうというもの。7ケタの方がチョコケーキ、2ケタの方がフルーツを選ぶ確率が高かったそうで、ストレスが多いと衝動的に欲求に支配されるということです。
「一日じゅうNoと言い続けると、誘惑に抗う力が弱まっていく」…Noと言い続けるのは、何度も重量挙げするようなもの…改めて、体の声をちゃんと聞ける状態でいるのがすごく大事だなと思いました(^_^;)

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 熟慮的な論理的思考力が占有されると、衝動システムが行動を支配するようになることを、ババとサーシャの実験は示している。だがロイ・バウマイスター(フロリダ州立大学教授)が「自我消耗」と名づけたものについて考えると、論理的思考力と欲求の間には、さらに複雑な相互作用があることがわかる。
 自我消耗を理解するために、たとえばあなたが体重を二、三キロ減らそうとしているとしよう。ある日職場で、あなたは朝のミーティング中、チーズデニッシュが気になってしかたがないが、真面目に頑張ろうとして、必死に誘惑と闘い、コーヒーをすすってがまんする。しばらくすると、昼食にフェットチーネのクリームパスタが無性に食べたくなるが、ガーデンサラダとグリルドチキンで泣く泣く手を打った。一時間後、上司が外出しているのをいいことに、仕事を早めに切りあげたい気持ちに駆られるが、自分を押しとどめてこう言い聞かせる。「だめだ、このプロジェクトを終わらせないと」。こうした状況のそれぞれで、快楽本能があなたを快い満足へと誘うが、あなたの立派な自制心(または意志力)は衝動に抗おうとして、反対の力を加える。
 誘惑に抵抗するには大変な努力とエネルギーが必要だというのが、自我消耗の基本的な考え方だ。意志力を筋肉に見立てるとわかりやすい。フライドチキンやチョコレートシェイクを見ると、わたしたちはまず本能的に「おいしそう、食べたい!」と感じる。それから、この欲求を克服しようとして、いくらかエネルギーを消費する。誘惑から逃れる決定を下すたび、多少の努力が必要になる(重量挙げを一度するようなものだ)。そして意志力は、くり返し使われるうちにいつしか消耗してしまうのだ(何度も重量挙げをするようなものだ)。つまり、ありとあらゆる誘惑に対して、一日じゅう「ノー」と言い続けると、誘惑に抗う力が弱まっていく。そしていつかある時点で屈してしまい、結局はチーズデニッシュにオレオクッキー、フライドポテトなどなど、よだれの出そうな食べものをたらふくつめこんでしまう。これはもちろん、気がかりな考えだ。何しろわたしたちは、日々ますます多くの決定を求められているうえ、たえず誘惑の嵐にさらされている。何度も自分を抑えるうちに自制力が消耗していくなら、こうしょっちゅう自制に失敗するのも無理はない。また自我消耗は、夜に自制に失敗することがこんなにも多い理由を説明する、一日中真面目に頑張り続けると、何もかもに疲れてしまう。だから夜になると、とくに欲求に屈しやすくなるのだ。