ギャンブルにはまるメカニズム

快の錬金術―報酬系から見た心 (脳と心のライブラリー)

なるほど…、人の脳ってなんとまぁ…、と思いつつ(^_^;)読みました。

P94
「射幸心」という言葉を聞いたことがあるだろうか?思わず賭けてみたくなる、賭け心をそそられる、という意味だ。・・・
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 ギャンブル依存に関する最近の脳科学的な知見は、非常に重要な情報を与えてくれる。その一つは、ギャンブラーたちの多くは、お金を儲けるために賭け事に夢中になるのではない、ということである。いや、これは正確な言い方ではないかもしれない。彼らはもちろん「一攫千金のためにパチンコ台に向かっているんです」というだろう。しかし彼らは負けた時も、あるいはニアミスの時も、場合によっては大当たり以上に脳内の報酬系ドーパミンが出ているらしい。それがますます彼らを賭け事に夢中にさせるというのだ。それをLoss chasing(負けを追い求めること)と呼ぶ。だから正確な言い方をするならば、「ギャンブル依存の人は微妙な形で負けると、ますます興奮する」のだ。結局はお金が儲かるかが不確かであればあるほど、賭け事そのものに興奮し、夢中になるというわけである。

P107
 結局射幸心は、ギャンブルにおいて渇望を引き出す仕組みであり、ギャンブルを提供する側がそれを巧みに操るのである。人の射幸心をあおる、とは賭け事で「もっともっと……」と人の心を狂わせるための手段なのだ。そしてその特徴はなんと、負けたことが人の心をあおるという、常識からはあり得ない仕組みにある。
 もちろん人は負けること自体を目的とするわけではない。負けることはつらく苦しいことだ。しかし「次は勝つかもしれない」、という気持ちがギャンブルの継続を人に強いる。そのひとつの決め手はニアミスということだ。・・・この「もう少しのところで当たっていた(けれど結局は外れた)」という体験が、ギャンブルの射幸心をあおるのである。
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 ある研究によると、ニアミスはフルミス(完全なミス、大外れ)に比べると不快は大きいが、もっとやりたい、という気持ちを生むという。ただしそれは、ギャンブルをする人がある程度のコントロールを握っている場合である。それはどういうことかといえば、たとえばサイコロを自分で振ること、パチンコ玉を自分で弾くこと、・・・そうすることでギャンブラーは自分がつきを呼び、大当たりを引き寄せるという錯覚を覚える。そこでニアミスが生じれば、ギャンブラーは「負けた」ではなく、「もう少しで勝った」というふうに感じ取るというわけだ。
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 そこでニアミスと脳との関係であるが、ニアミスの場合は、両側の腹側線条体と右前島皮質という部分が興奮していたというのだ。そしてそこは、思わぬ棚ボタで興奮するところとして知られていた部分であった。もう一つの発見は、ニアミスではいわゆる報酬サーキット(右前帯状皮質、中脳、視床)も興奮し、それが嗜癖と関係しているということがわかったという。
 この論文でも強調されているのが前島皮質である。どうやらここに秘密が隠されている。薬物依存でも、渇望(薬物をやりたくてやりたくて仕方がない状態)に深く関連しているのがこの前島皮質であることが知られている。そして事故等でこの部分に損傷がある場合には、この渇望が起きなくなるという。実に不思議ではないか?ここが傷つくと、依存症が嘘のように消えてなくなる可能性があるというのだ。
 そしてもう一つ問題の部位が右前帯状皮質であり、この部分がニアミスを「常にもう少しで勝っている」と体験することと関連しているという。