人生が変わった旅の話

ジプシーにようこそ! 旅バカOL、会社卒業を決めた旅 (幻冬舎文庫)

たかのてるこさんの旅には、もれなくユニークな人やとんでもない話が出てきますが(笑)この本はその濃度が高かったような。
あとがきに、こんな風に書いてありました。

P368
 この、喜怒哀楽のムギュッと詰まった旅を終えて、私はひとつの人生が終わったと思うほど燃えつきましたが、同時に、新しい人生が始まったような活気をもらうことができました。なんというか、今まで開いていなかった扉がパーッと開いたことで、「ジプシー前」「ジプシー後」みたいな感じで、自分の中に新しい暦ができたとでも言えばいいでしょうか。
 ・・・
 ・・・あのハンパじゃない生命力を思うと、たとえ地球に何が起きても、彼らだけはサバイバルできるだろうと思ってしまうほどです。
 ジプシーの「行けばなんとかなる!」という精神には頭が下がりますが、それは私たちとて本当は同じで、どんな人も、行きたいところがあれば行けばいいし、生きたいように生きればいいんだとつくづく思いました。
 ・・・
 今読み返すと、ジプシーとの出会いが、私の人生を180度、変えたんだなぁとしみじみ思います。
 この旅から帰って1年半後、私は18年勤めた映画会社を辞め、<旅人・エッセイスト>として生きる決意をしたからです。旅の最後、(日本に帰ったら、もうちょっと自由に生きてみよう!)と思ったものの、まさか、自分が本当に会社を卒業し、"旅人"になる日が来るとは思いもしませんでした。
 ・・・
 ルーマニアの旅から帰った後、ボディブローのようにじわじわ効いてくるジプシーとの出会いを噛みしめていた最中に3・11、東日本大震災が起き、人はいつ何どき何が起こるか分からないという"無常"を改めて痛感しました。そしてそれは、「今、このとき」を生きるジプシーの生き様とダブルパンチで私をノックアウトし、今までの価値観で生きていくことに違和感を覚えてしまったのです。
 私は生まれて初めて、「明日死ぬとしても、同じように生きるか」という問いについて、本気で考え、勇気を振り絞って「ノー!!」と答えました。誰でもいつかは通る道である死は、私にとってそう怖いことではありません。私は、いつか死ぬことよりも、自分らしく生きられないまま死ぬことの方が怖かったのです。
 なーんて今はカッコよく言ってしまえるのですが、会社を辞める前は、それこそ本当に、死ぬほど悩みました。
「旅人って、どうやってメシ食うつもり!?」「それって、単に無職じゃん!」「若いならまだしも、40歳にもなって今さら!?」
 いろんな人に散々言われ、不安に押し潰されそうで苦しかったですが、当時のモンモンとした気分と、夢が叶った今では、天国と地獄の差です。・・・
 もしタイムマシーンがあったら、あのときの自分に「なんとかなるから大丈夫!心配すんな!」と言ってやりたいです。当時の自分だけでなく、今までの人生で落ち込んだ、あのときの自分にも、あのときの自分にも、言ってやりたい。「大丈夫!立ち直って元気にやってるから、心配すんな!」と。
 自分にも言い聞かせていることですが、すでに過ぎてしまった「過去」を思ってくよくよしたり、どうなるか分からない「未来」を心配したところで、いいことなんて何もありません。そんな心配をするヒマがあったら、目の前の「今」に全力を尽くす方が、いい未来が来るに決まってる!と思い、私はもう「心配しない」と決めたのです。