この発想、この気づきは大きいですね。
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フィラデルフィア・フィリーズでのぼくは、ベンチ入りを許される二五人の選手枠のうち二五番目の選手だったと思います。そんな二五番目の位置にいるからこそ、見えてくる何かというものがありました。
よく言われるように、チームもまた生き物です。人間がネガティブな感情を募らせると体調を崩すことがあるように、チームのだれかひとりでもネガティブな行動をとれば、チームもまた変調をきたすのです。
はっきりいえば、ぼくはこう考えていました。
<このチームを崩壊さそうと思えば簡単やな>
チームの起用方針に対して、不平不満を言うだけでいいのです。不満をこぼす相手は、ぼくと同じように不満を持っている相手、二三番目か二四番目の選手が適任でしょう。
「どう思う、俺らの使われ方?」
「最悪だよ。やってられないよな」
マイナスはマイナスを呼び、不平不満は一気に広がります。そのようなチーム状況で勝てるほど、メジャーの世界が甘いはずもありません。これは、かたちは違えどビジネスマンの世界でも、まったく同じことがいえるのではないでしょうか。
もちろんぼくは、そんな馬鹿げた行動をとることはありませんでした。
・・・
・・・いまふりかえっても、なぜそんな心境になれたのかがわかならないのですが、「チームや監督が変わらないなら、俺が変わらなしゃあない」と強く思ったのです。
それまでのぼくは、自分が置かれている状況(守備固めでもなんでもいいから、とにかく試合で使ってほしい)に対して、監督室に直談判に行くなどして、まわりを変えさせようとしていました。幸いにもコーチやGMはぼくの言葉に耳を貸してくれもしましたし、監督に進言さえしてくれました。
ところが、そんな時期にフィリーズは勝ちはじめてしまったのです。つまり、結果を残せている監督が変わるわけがない。だったら、自分が変わろうと思ったのです。
<この先も出場機会はほとんど得られない>
自分が変わるしかないと思いはじめていたぼくは、その前提でこれからのことを考えました。
結果、真っ先に頭に浮かんだのは「笑うしかない」。ベンチに入れる選手は二五人しかおらず、おそらく自分が二五番目の選手である。でも二五番目だからこそ、変な顔をしてベンチにいたらチームに悪影響が出てしまうと思ったのです。
つまり、オールスターゲーム前までの「このチームを崩壊さそうと思えば簡単やな」ということの逆をやろうと考えたのです。そのほかのバックアッププレーヤーの考え方も知っておきたかったので、食事や飲みに誘ったりもしたものです。
・・・
・・・フィリーズで世界一に輝いて思ったことがあります。それは、「世界一になれたのは俺のおかげや!」ということ。もちろん、こんなことはフィリーズのチームメイトもスタッフもだれも言ってはくれません。完全なる自己満足です。
それでも、ぼくは思うのです。二五番目のプレーヤーだからこそ、フィリーズというチームを崩壊させるのは簡単だった。だからこそ二五番目の選手は非常に重要な役割を担っているはずだ、と。
二五番目といえば、最後尾ですよね。たとえば、フィリーズというチームがパズルだったとします。通常の物質的なパズルならば形が決まっているのですが、野球のチームは構成しているのが人間なので、その形はつねに流動的です。
そんな不規則な形のなかに、最後にバシッと入りこまなければならないのが二五番目の選手。ということは、二五番目の選手は、つねにどういう形にでも変われなければならないし、あらゆる隙間に入り込めなければならない。
そして、その最後のワンピースがそろわなければ、チームというパズルは決して成立しない。