逃げ道の大切さ

脳はこんなに悩ましい (新潮文庫)

逃げ道があるだけでストレスが変わる、当たり前といえば当たり前ですが、大事だなと思いました。

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池谷 ・・・ストレスには二種類あります。精神性のストレスと身体性のストレス。・・・身体性のストレスは無意識です。本人はツラいと思っていなくても、身体が蝕まれているケースですね。身体性ストレスは、実は、きちんと計測できるんです。・・・ストレスホルモンの血中濃度を測ればいいのです。ストレスホルモンについては重要なデータがあります。ストレスホルモンを強制的に放出させるペンタガストリンという薬を使います。いや、薬というよりは、毒に近いですね。「ストレス発生物質」ですから。点滴するとストレスホルモンの血中量が強制的に増えます。この実験は一般人からボランティアを募って行われました。二つのグループに分けます。一つはただ点滴するだけのグループ、もう一方は、枕元にボタンを置いて「具合が悪くなったら、ボタンを押せば実験を中断できます」と説明してから点滴するグループ。

中村 興味あるなあ。やってみたい。

池谷 そうですか(笑)。こういう嫌な実験にボランティアで参加して下さる方は真面目な方が多いのか、ちょっとくらい具合が悪くてもボタンを押さないんですよ。

中村 我慢しちゃうんだ。中断させたら申し訳ないもんね。

池谷 結局、両者に同じ量のペンタガストリンが点滴されます。にもかかわらず、ボタンがあるグループは、ストレスホルモンの上昇量が五分の一くらいで済んだのです。

中村 へぇ!逃げ道があると思うだけで、ストレスに耐えられるわけですね。

池谷 ストレスから逃げる必要はない。ボタンというストレス回避法があることを「認識する」だけで、すでにストレスを解消したのと同じ効果があるのです。・・・この実験にも、やはり、精神と物質の接点を感じますよね。