つづきです

茶色のシマウマ、世界を変える―――日本初の全寮制インターナショナル高校ISAKをつくった 小林りんの物語

 インターナショナルスクールを作ろうという思いにいたるまで、つづきです。

P170
 ・・・『アジアの貧困層の子どもたちにも門戸を開いたインターナショナルスクールを日本につくりたい』って、谷家さんは言うわけです。面白いアイディアだと思った。もしかしたらそういう方法もあるかもしれないって。・・・

P173
「私はずっとマルチ・タスク型だったんです」
 ある時、小林がそう言った。
 マルチ・タスクとは、コンピュータで複数の仕事を同時に並列して行うシステムのことだ。いくつものアプリケーションが開いたコンピュータのディスプレイのように、彼女はいつもたくさんのことに同時に夢中になっていた。
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 りんは、ついに全力疾走できる仕事に巡り合ったのだ。
 しかもその最中に、彼女はひとりの男の子を産み、育てていた。
「子育ては、夫と、それから双方の親に、全面的に頼ってしまいました」と言って彼女は笑うけれど、それは並大抵のことではなかったはずだ。
 学校をつくるというこのプロジェクトを進めるために、りんが会った人の数は5000人を超えている。寄付を募るために、大きなお腹を抱えて、大企業のお偉方に会い、講演をしていた時期もある。
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 あるいは読者はどうして、そこまで彼女が学校づくりに夢中になったのかと、不思議に思うかもしれない。彼女はすでに何年間も、無給でその仕事をしていた。
「このプロジェクトを成功させるには、それしか方法がなかった」
 彼女は本当になんでもないことのように、そう語る。

P180
 りんは、その前後の気持ちを自分のブログにこう書き記している。
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 Universal educationはもちろん大切です。しかし、構造的に貧富の格差が再生産されるような国において変化が起るためには、やはりトップが変わらなければならないと感じます。優秀なだけでなく、自らの既得権益を手放してでも国民全体のバランスのとれた幸せのために制度設計できるような政治家。権力に屈したり、汚職に手を染めることなく、自らの力で道を切り拓いていける企業家。母国への愛情と歴史への敬意を持ちながらにして、新たな文化を創造できる芸術家。そうした人々の存在なしに、国の永続的な発展はないのではないでしょうか。
 そんな思いから、アジアの子どもたちに全人格的な教育のできる学校をつくりたい、と考えるようになりました。しかも、ここ日本において。アジアの将来のリーダーたちに日本を知り愛してもらうために。そして、日本の子どもたちにも彼等と共に学び、国際感覚豊かで誇れる日本を担う人材に育ってもらうために。・・・