悩みながら進んだ過程

茶色のシマウマ、世界を変える―――日本初の全寮制インターナショナル高校ISAKをつくった 小林りんの物語

小林りんさんが、学校作りへと進む過程を抜粋してみました。

P150
「実際にNPOUNICEFの支援で教育を受けて、奨学金をもらって大学に通っているストリート・チルドレンもたくさんいます。そういう子たちに会って話をすると『自分がこんなふうになれるなんて思わなかった。こんな人生を歩めるなんて奇跡だと思う』って、目に涙をためながら話してくれたりするわけです。・・・」

P153
 路上で暮らす子どもたちの所在を常に確認し、彼らの安全を守るという意味でも、誰かがそれこそ命がけで取り組まなければならない仕事だった。だからりんは夢中でその仕事に取り組んだ。それまでその職についたUNICEFの職員の誰にも負けないくらいに……。
 それでも、どんなに一所懸命に仕事をしても、いや一所懸命にその仕事に取り組めば取り組むほど、りんは心の底から、ひとつの動かしがたい疑問が湧いてくるのを抑えられなかった。
「自分がやっていることは、焼け石に水をかける種類の仕事なのではないか?」

P155
 ストリート・チルドレンの問題を根本的に解決するには、彼らを生み出す母体である何万何十万という貧困層を社会の経済基盤に組み入れるための職を創出する必要がある。・・・
 それがよくわかるだけに、りんにはなおさら自分の現在やっていることが、徒労でしかないように感じられて仕方がないのだった。山火事の最中に1本の立木を守るためにバケツリレーで水を運んでいるような気持ちになることもしばしばだった。

P159
 本来ならば、それは外国人がどうのこうの言うべき問題じゃないっていうのはわかるんです。それは彼らの社会の問題だから。だけど考えちゃうじゃないですか。彼らもきっと私みたいに、もっと若い時に私と同じような経験をしていたら、物の見方が変わるかなとか。やっぱり私には、カナダでの高校生活で目を開かされたところがすごく大きかったから。彼らを教育するって言ったら傲慢だけど、この国にも若い時にそういう経験ができる学校がもしあったら、これを変えられるんじゃないかとか。貧困層教育だけじゃなくて、富裕層教育も必要なんじゃないかとか。ほんとにいろんなことを考えました。・・・

P162
 やはり自分にはベンチャー的な手法で、もっと柔軟にこの問題と取り組む方法を探すほうが性に合っていたのかもしれない。
 UNICEFでの仕事が2年目に入る頃、りんはしきりにそのことを考えるようになった。