アスパラとキャベツ

今日もごちそうさまでした (新潮文庫)

この本も、いろいろ面白い描写が出てくるのですが、印象的だったのはアスパラとキャベツがすごく褒められてるところでした。

P61
 北海道産アスパラガスの威力を思い知ったのは、十年ほど前。北海道出身の友人が、母親から送られてきたというアスパラガスをお裾分けしてくれたのだ。食べてみて、まったくなんの誇張もなく、奇声を発しそうになるほど驚いた。んもう、ぜんっぜん違う。私の知っているアスパラガスとはぜんっぜん違う。やわらかさが違う。ぽくぽく感が違う。においが違う、風味が違う、歯ごたえが違う、甘みと余韻が違う。なんですかこれ。

P225
 キャベツってその存在がすでに天才だと思う。
 野菜嫌いの私でも、子どものころから馴染んでいたキャベツ。どんな料理にもするりと入って、自己主張せず、何風の何味にでも自身を変えるキャベツ。それでいて、無個性ということもなく、ほかのものとは代用がきかないキャベツ。
 もしこの世からキャベツが消えたら、同時に消滅する料理のなんと多いことだろう。ロールキャベツがなくなり、回鍋肉がなくなり、お好み焼きがなくなり、野菜炒めがなくなり、コールスローがなくなる。そればかりか、べつに主役でもなんでもないが、焼きそばやポトフだって、キャベツがないなら作りませんという人はいるだろう。豚カツも、きっと今より格段に人気は落ちるはずだ。キャベツのない世界の、なんとさみしくみじめなことか。