作業時間が増えたのに喜ばれる仕組み

アリエリー教授の人生相談室──行動経済学で解決する100の不合理

不合理だけど人間てそういうものだなぁと、おもしろかったところです。

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親愛なるダンへ
 社会人になって間もないころ、僕は勤めていた大手銀行でエクセルの巨大なマクロ(エクセルで行う作業を自動化するシステム)をつくりました。大量のデータを分析して、きれいなレポートに仕上げるマクロです。分析とレポート作成には二分ほどかかるため、その間砂時計を表示して、マクロを実行中であることがわかるようにしていました。レポートはとても重宝されましたが、マクロが遅すぎると散々文句をいわれました。
 マクロの進みを速めるには、画面に砂時計だけを表示して、背景で見えないようにマクロを走らせる方法があります。最初はこのやり方だったんですが、その後おもしろいかなと思って、実行中の処理を見られるように設定を変えていました。こうすると、データがスライスされたり、データベースのいろんな部分の色が変わったり、ヘッダーのタイトルやグラフが作成される様子が、ビデオの早回しを見ているように見えるんです。でも一つだけ問題があって、そのせいでマクロの実行に前の三倍ほど時間がかかるようになりました。
 ところがびっくり、マクロがどんなに速くてすばらしいかを、みんなが口々にほめてくれるようになったんです。どうしてなのか、合理的に説明してもらえませんか? マイクより

 ・・・君がわかりやすく教えてくれた現象には、二つの要素がある。一つは、人は何かをぼんやり待っていると時間を無駄にしている気がして、時が経つのを苦痛に感じるということ。つまり君の同僚たちにとって、マクロが終わるのをぼーっと待ちながら過ごすのは、何かをしながら過ごすよりずっと苦痛が大きかったんだね。二つめの要素として、誰かが自分のためにはたらいているのを見ると、とてもいい気分になるということ。一生懸命はたらいているときはとくにそうだ。ここでのポイントは、私たちは仕事から得られるアウトプットの質を直接評価するのは苦手でも、こと労力に関してはごく気軽に、あたりまえのように評価するということだ。そしておもしろいことに、誰かが自分のために一生懸命はたらいてくれる喜びは、人間だけでなく、コンピュータのアルゴリズムがはたらいてくれる場合にもあてはまるんだ。・・・