毎月新聞

震災については、今は祈ることと、自分が無事でいて、支援できるタイミングになったら何かする、ということしかできませんが…糸井重里さんの「今日のダーリン」http://www.1101.com/home.html(4月18日の)を読んで、ほんとにそうだなと共感しました。
ところでまた、読んだ本のご紹介です。

毎月新聞 (中公文庫)

ポリンキーやスコーンのCMや、だんご三兄弟などで有名な佐藤雅彦さんの本を読みました。
毎日新聞に連載されていた「毎月新聞」。
発想が目新しくて、読んでて気持ちよく、楽しかったです。

P155
 ・・・このカチッという視点の切り替えの同じ感覚をエンターテイメントとして取り入れた素晴らしい例をその時急に思い出した。かなり昔、友人が外国で観てきた博覧会のパビリオンの話をしてくれたことがあり、僕はそれにひどく感心したのだった。人気のあるパビリオンにとって待ち時間の長い行列は悩みの種である。メインの本展示に予算を取られて、出展者は外の行列に対してまで何らかの演出を施す余裕はない。しかし、そのパビリオンは延々と続く長い行列に来場者が飽きる頃に、何故かみんな振り返って一様ににこやかになるというのだ。一体どうして?と友人に尋ねるとなるほどと思わせる回答が返ってきた。そのパビリオンは、入口が二階にあり、行列の最後に近くなると階段を昇る造りになっていて、ふと振り返ると今まで自分が並んでいた列が動物の一筆書きのイラストになっている、というものであった。来場者はくねくね曲がりくねった導線を単なる行列の道としか思わないが、すこし距離をもって上から見下ろすとなんと楽しい展示になっていたのだった。階段の上まできた人は、自分がその展示のパーツを務めていたことや、先人達がなぜ振り返ってにこやかになったのかの秘密がわかりとても楽しくなるのである。ここでは、展示の一部としての自分とそれを楽しむ観客としての自分という「視点の切り替え」がエンターテイメントとしてうまく使われていたのだった。
「視点の切り替え」の重要性はみんな理解していると思うが、僕はその時に生まれる切り替えスイッチのこのカチッという気持ちよさこそ、人間が生きている証のような感じがする。あのパビリオンで階段の上から振り返ってにこやかになっている観客の顔を僕は話だけでも容易に想像でき自分までも愉快になった。