ルーズと融通

最後はなぜかうまくいくイタリア人

地域別の特徴も色々と紹介されていて、なかでもこのカンパーニアの話は印象的でした。

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 ナポリを州都とするカンパーニアは、まさに南イタリアのエッセンスを詰め込んだ州だ。ここだけはほかとはまったく異なる別の国である。・・・
 ナポリで車を運転していて赤信号で止まると、うしろからクラクションを鳴らされる。「赤信号ぐらいで止まっていないで、適当に隙を見つけて前に進め」ということである。ナポリでは一事が万事そうである。規則を守るという意識は一切ない。・・・
 だからナポリの人は不意の事態、アドリブに抜群に強い。フレキシビリティーが抜群で、なんにでも対応する能力がある。ずっとそのように人生を生きてきたからである。
 有名な笑い話がある。アメリカのお金持ちの婦人がバカンスでミラノに来て、高級ホテルに泊まっていた。時差の関係で寝過ごしてしまったが、お腹が空いていたので、10時過ぎに朝食を食べにいったら、「申し訳ありませんが、朝食のサービスは10時までです」と断られたというのである。それが規則なのだから仕方ないと諦めて、その日は朝食抜きにした。
 次の週にナポリに移動して、これもホテルに滞在することになったが、ミラノの一件があったので、確認することにした。レストランの責任者をつかまえて、「すいませんが、朝食の時間は何時ですか?」と尋ねた。尋ねられた男性はきょとんとして、「シニョーラ。朝食の時間はあなたがお目覚めになったときです」と答えたというのだ。
 これはまさにナポリのエッセンスを伝えるエピソードだ。・・・「そんなことを気にする必要はないですよ。あなたがお望みでしたら、私たちは何時でも対応します」というのがナポリだ。とにかく融通が利くのである。
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 人々は時間にルーズで、地下鉄に乗ればまわりはスリばかりで、赤信号で止まると怒られるナポリ。規則は一切の価値を失い、それぞれがその場の対応でなんとか切り抜けていく「万年火事場」のようなカンパーニア。しかし、そこは同時に融通が利いて、なんにでも対応してくれる温かい人々がいる、人間的な場所でもあるのだ。
 この2つは深いところで結びついていて、根はひとつのものだ。すべてのことに光と影があるもので、そのどちらか一面だけを見て、褒めたり貶したりすることは意味がなく、深いところにあるものを理解することが大切だと私は思う。