なんでも自分が、と思わない

おちゃめな老後

これも大事なことだなと…以前テレビのドキュメンタリーで木梨憲武さんが「あとはロープーの方々がやってくれるから」と完全に信頼して任せていて、そのゆとりのある姿勢がかっこよかったのを思い出しました。

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 仕事を通して学んだことはたくさんあるけれど、「専門家に任せる」「なんでも自分が、と思わない」というのも、その一つです。
 少女雑誌の挿絵からスタートした私の仕事は、描いた絵を印刷して、本の形にしてもらってやっと読者の方の目に触れる機会を得ます。
 どんなに腕のいい職人さんがいたとしても、原画と印刷物は100%同じにはならない、ということを新人の頃からさんざん経験してきました。だから、私は原画を印刷所に預けたら、ほとんど口は挟みません。原画が絶対、とは全然思っていないのね。実は原画より良くなっていることもしばしばあります。
 それに、一冊の本が読者の手元に届くまでには、本当にいくつもの複雑で特殊な工程があって、どんなにがんばっても、私一人ではできません。絵が載るときに、画家としてクレジットされる名前は「田村セツコ」だけれど、それが実現するためには、編集の人がいて、デザイナーさんがいて、印刷所の人がいて、それを売ってくれる本屋さんがいて……と、本当にたくさんの方の力が必要なんです。みんな対等、プロ同士がお互いに力を出し合うからこそできること。だから、私は現場の人たちを心から尊敬しています。
 相手の力を信じて、委ねるというか、お任せするのが好き。絵を渡して「よろしくね!」ってお願いするときには、本当にすがすがしい気持ちになります。絵が旅立つような感じで、スリリングなの。「楽しみにしています」って私はよく言いますが、毎回、新鮮な気持ちでそう思うんです。
 仕事だけに限らず、日常的なあれこれについても、私には「こだわる」ということがほとんどありません。むしろ、"あいまい"でもいいかなと思ってるの。"あいまい"から広がる世界もいっぱいあるみたいです。
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 あるお医者さまがおっしゃっていました。毛糸がからまってしまったら、無理に引っ張ったりせずに、まずは手でふわっふわにゆるめてからほぐすと、からまりがとれやすくなるそう。
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 人にも自分にもやさしい"お任せ"は、人間関係をスムーズにして、まわりも自分もふわっふわにほぐしてくれる、とっておきの魔法かもしれません。