こんな努力もあったのですね

本気になればすべてが変わる 生きる技術をみがく70のヒント (文春文庫)

この話も感動しました。
P176
 テニスの世界では、プロになりたての頃は海外での練習相手も自分で探します。
 自分と同レベルか下の人に練習を受けてもらうのは簡単ですが、それでは上達しないので、僕は常に自分よりうまい選手に練習をお願いしていました。下位選手が競い合うサテライトでは、試合に負けると練習コートを使わせてもらえないので、負けたときはコート脇で黙々とトレーニングしながら、ひたすら「僕と練習してください」と声をかけました。
 当初は誰も応じてくれませんでした。格下の選手と練習したところで、何もプラスにならないからです。実力がないというのは本当に悲しいことだと思い知らされましたが、それでも声をかけ続けました。このとき必要なのは、「とにかく練習させてくれ!」という気持ちを前面に押し出す表現力です。いくら英語が上手でも、「お願いしやーす」的な気のない言い方では、永久に誰からも相手にされません。
 こうして、たまたま「やってやるか」と言ってくれる相手が見つかったら、二〇〇パーセントの力を出して頑張りました。といっても、この練習はあくまでも相手を喜ばせるためのものです。仮にこちらが、「俺の練習なんだから」と全部エースを決めるようなことをしたら、相手は二度と応じてくれません。「本番のためのいい練習になった」と相手に思ってもらえるよう、僕が努力し、気をつかわなければならない。
 こういう場合の練習は三十分から一時間くらいですが、相手はレベルが上ですし、こちらはボールを走って拾いに行ったり、「へんなミスをしたら次は練習してもらえない」という緊張感もあるため、五、六時間練習したように疲れました。ビジネスマンでいえば、新入社員が社長や重役クラスといっしょに仕事をするような感覚でしょう。
 また、練習してくれた選手の試合は必ず応援に行き、拍手をしまくりました。少しでも気に入ってもらい、もう一回練習してもらいたかったからです。
 こうしたことを続けるうちに、何人もの選手が練習に応じてくれるようになり、僕のレベルは自分でもびっくりするほど上がっていました。
 どんなジャンルでも、実力者の胸を借りるときには、その人に気に入ってもらえるような言葉づかいや行動をすべきです。これは阿諛追従ではなく、自分の力を高めていくための一つの方法です。相手をいい気持ちにするのが、すべての人間関係の基本なのです。