ソフトボールの上野選手のお話は感動的でした。
「仲間を信じよう!そこからすごいパワーが生まれる」というタイトルです。
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北京オリンピックで最も感動した競技に、ソフトボールをあげる人は多かったと思います。
アテネ大会から見てきて特に思ったのは、上野由岐子投手が人間的にぐんと成長し、それが試合にも反映されていたことでした。かつての「自分が三振をとらなきゃ勝てない」という思いから、「仲間がいるから打たせて大丈夫」という考え方に変わっていたのです。
決勝トーナメントでは二日間で三連投。計二八イニング、四一三球を投げました。連投のせいでアメリカとの決勝戦前にマメがつぶれてしまい、一回裏にいきなり満塁にされてしまったとき、僕は「ああ、これで終わった」と思いました。
ところが、あとで上野選手にそう言うと、
「あそこで私は勝てるって確信しました」
と言うのです。いったい、なぜ?
「これまでアメリカに打たれたときは、いつも完全クリーンヒットだったけれど、あのときはどれも、ボテボテのアンラッキーな内野安打だった。それで、アメリカは焦って浮ついているとわかりました」
「でも、焦らなかったですか?満塁にして」
「ぜんぜん。満塁になっても、ノースリーまでは全部ボール球を投げようと思っていました。一〇〇パーセント打ち取れる自信があったから。そんな気持ちになれたのは、初めてでした」
いちばんのピンチで、「チャンス!」と考えられる……。すごい自信です。聞いていて、鳥肌が立ってしまいました。
六回にクリストル・ブストスというすごいバッターが打席に立ったときは、監督もチームメイトも、「上野が勝負したければ絶対にさせよう」と考えていたそうですが、上野選手は、自分から「敬遠させてください」と言いました。
「なぜなら、勝ちたいと思ったから。ブストスを歩かせても、次のバッターは仲間が絶対守ってくれるから、ピンチにはならないって、わかっていました。そういう自信があったんですよ」
身を乗りだし、ここまで自分の思いを熱く語る上野選手を見たのは、初めてでした。