優雅な誘導

私の声はあなたとともに―ミルトン・エリクソンのいやしのストーリー

ミルトン・エリクソンの催眠誘導の様子がわかりやすく書かれていたところです。
憧れます(*^_^*)

P87
 ある女性が、ワークショップで被験者に志願してきました。彼女によると、今まで多くの人が長い時間をかけて彼女に催眠をかけようと試みましたが、催眠暗示はどれもこれも無効だったとのことでした。
 そこで私は、彼女自身について少しばかり質問をしてみました。彼女はフランス人でした。彼女は好みのフランス料理をあげて、お気に入りのニューオーリンズのフランス料理店を教えてくれました。そして音楽がどんなに好きかを話しました。彼女はその音楽について説明してくれました。
 彼女は、私が音楽に聞き入る姿勢になっているのを見ると、首を傾けて反対の耳で聞き始めました。彼女は左の耳がよく聞こえるようでした。そこで、私も右の耳を閉じました。
 私は言いました。「あなたにも聞こえますか?とってもかすかな音でしょう?オーケストラはどのくらい離れているのでしょうか。でも少しずつ近づいてきている感じはします」
 まもなく、彼女は音楽に合わせて拍子をとらずにはいられなくなりました。
 それから私は質問をしました。「オーケストラには、バイオリニストがひとりかふたりいませんか?」。答えは、ふたり。そして彼女は、サクソホン奏者がいることも教えてくれました。こうして私たちはとても楽しい時間を過ごしました。
 私には、オーケストラがその作品を最後まで演奏したのかどうかわかりませんし、楽譜をめくって違う種類の曲を演奏したのかどうかもわかりません。いずれにしても彼女は、お気に入りの曲はすべて聞いたようです。
 催眠はある現象に想いをめぐらせることによって、たやすく達成されるのです。人がどもるのを聞いたとき、そのことばを口に出さないではいられないでしょう。あなたはそのことばを口に出し、どもっている人を助けたいと思うのです。

 幻聴を暗示するために通常よく使われる、催眠術者が「あなたには……が聞こえるでしょう」などという方法に比べて、なんと優雅なやり方だろう。エリクソンはふたたび、他人を助けたいと願う人間の傾向について語っている。彼がもう少しでオーケストラが聞こえそうだということを身をもって示したときに、患者は自らそれを聞くことで彼を助けたのだ。