この話もおもしろいです

私の声はあなたとともに―ミルトン・エリクソンのいやしのストーリー

私たちは無意識のうちに多くの情報を提示しているという、コミュニケーションの複雑さというかおもしろさについてのお話です。

P59
・・・ある教授が「アーサー君、私の試験はちゃんとできそうですか?」と尋ねました。アーサーは「先生の試験については、何の問題もありません。先生は10問だけ試験問題を用意しているでしょう」と答え、10の問題の内容をすべて言いました。
 教授は言いました。「私が出す問題を正確に知っているじゃないか。しかも出題順に言ってのけるなんて。君は私の部屋に入って、問題用紙のコピーをとったのか?」
 アーサーは言いました。「いいえ、私は、ただ最終試験で先生が何を問うつもりか知っていただけです」
 教授は言いました。「そんなことでは納得できない。これから学部長のところへ君を連れていきます」
 学部長は話を聞いて、言いました。「アーサー君、本当かね。試験問題を知っているのかね」
 アーサーは言いました。「もちろん私は問題を知っています。私は教授のコースを取り、講義を聞きましたから」
 すると学部長は言いました。「君はきっと、何らかの方法で問題用紙を手に入れたに違いない。もし君がそうでないことを証明できなければ、君が試験を受けるのを禁止しなければならない。そして不正のため卒業できなくなるでしょう」
 アーサーは言いました。「教授が問題をつくる前に、どんな試験問題がでるか私が知っていたことを証明すればよいのですね。私の部屋に誰かやって、教授の授業のノートをとってきてください。そうすれば、私がいくつかの項目に星印を付けているのがわかります。教授が問題にする項目には7つの星印でマークしています。そしてそれぞれの「星印」の項目に「1」、「2」、「3」……と番号がふられているのがわかるでしょう。教授には10問だけ問題を出すという習慣があるので、10項目を選んで7つの星印をつけました。それらは教授が年間を通してまた学年末のまとめの講義で、最も強調した項目なのです」
 学部長らは、誰かにそのノートをとってこさせました。・・・
 それで、学部長は言いました。「君は試験を受けなくてよろしい。君は講義を本当によく聞き、教授の声の調子が、特定の箇所で変化するのを聞き分けたのでしょう」
 ・・・アーサーは声の調子を聞き分ける、際立った感覚を持っていたので、試験問題に出る項目を前もって知ることができたのです。・・・コミュニケーションとはとても複雑なものです。顔の表情、目、身体の姿勢、身体や手足の動かし方、頭などの動かし方、個々の筋肉の動かし方―これらすべては、多くの情報をあきらかにしています。