こんなお話もありました

私の声はあなたとともに―ミルトン・エリクソンのいやしのストーリー

無意識はすでに知っている、というこんなお話もありました。
おもしろいというか、不思議というか、当然とも思えたり・・・です(^^)

P70
 私はペギーをトランスに入れました。彼女は、私たちが長いテーブルの反対の端にいることはわかっていました。彼女は何かを無意識のうちに書きました。そして彼女は、無意識のうちに書いた紙を折り、さらにもう一度折って、無意識のうちにハンドバッグに入れました。彼女は、この行為にまったく気づいていませんでした。彼女以外は全員わかりました。私は彼女をふたたびトランスに入れ「覚醒した後で、あなたは『6月の美しい日です』と無意識のうちに書くでしょう」と言いました。その日は4月でした。
 彼女はその通りに書きましたが、私が彼女にそれを示したところ、彼女は自分は書いていないし、それは自分の筆跡ではないと言いました。確かに彼女の筆跡ではありませんでした。
 9月になり、彼女がインディアナ州から長距離電話をかけてきました。「今日、おもしろいことがありました。先生が関係してると思いますのでお話します。今日ハンドバッグの中身を整理していたら、丸まった紙が出てきました。広げて見ると、見覚えのない筆跡で「私はハロルドと結婚するのかしら」と書いてあったんです。私の筆跡ではありません。この紙がどうして私のハンドバッグに入っていたのかわかりません。ただ、先生が関係しているような気がしたのです。私が先生にお会いしたのは4月にミシガン州立大学で先生の授業を受けたときだけです。この紙のことを説明してくださいませんか?」
 私は言いました。「4月に講義したのは事実です。ところで、あなたはあのころ誰かと婚約していましたか?」
「えー、そうです。ビルと婚約していました」
 私は言いました。「そのとき、その婚約に何の疑いもなかったのですか?」
「えー、ありませんでした」
「ビルとの婚約に疑問を感じるようになりませんでしたか?」
「はい、この6月にビルとは別れました」
「それからは?」
「7月にハロルドと結婚しました」
「ハロルドのことはどれくらい前から知っていたのですか?」
「顔は前から知っていました。2学期になってからだと思います。でも会って、話したことはありませんでした。7月に偶然彼と知り合うまでは」
 私は言いました。「『私はハロルドと結婚するのかしら』というのは、あなたが無意識のうちにトランス状態で書いたものですよ。あなたの無意識は、すでにビルとは別れることになるということ、そして本当に自分が好きな男性はハロルドであるということを知っていたのです」。彼女の無意識は、何カ月も前に婚約が破談になるのを知っていました。彼女が紙をたたんでしまったのは、まだ4月の段階では、意識してその事実に直面することができなかったのです。