10周年パーティーの時に、最近心理士の資格を取ったという方が話しかけてくれました。
色々お話する中で、「ユングやフロイトやいろんな人がいるけど、誰が好きですか?」と聞かれて「ミルトン・エリクソン」と答えました。
もともと大学の頃に教わっていた教授が、この人は素晴らしいと絶賛していて、ビデオを見せてもらったりして感動したのでした。
当時買って、今も時々読み返すことがあるのが「私の声はあなたとともに」という本です。
この本はエリクソンが患者さんや生徒さんにずっと語り続けた「物語」を、ぜひ本にしたいからと許可をもらってシドニー・ローゼンがまとめたものです。
たとえば「無意識を信頼しなさい」という章には「豚の背を掻く」というお話があります。
P57
ある夏、私は本を売って、大学へ通うための稼ぎとしていました。私は5時頃、農場に入り、本を買ってほしいと農夫に話しかけました。彼は言いました。「若いの、俺は何も読まない。何を読む必要もない。俺は自分の豚にしか興味はないんだ」
「あなたが豚に餌をやっているあいだ、そばに立って話をさせてもらえませんか」と私は尋ねました。
彼は言いました。「だめだ。あっちへ行きな、若いの。あんたにとってちっともよいことなんてないよ。俺はあんたをかまってやれないよ。豚の餌やりに忙しいんだ」
それでも、私は自分の本について話しました。私は農場少年だったので、地面に落ちている屋根板片を2〜3枚取り上げて、話しながら無造作に豚の背を掻き始めました。これを見て農夫は手を止め、こう言いました。「豚の背の掻き方を知ってるようなやつ、しかも豚の好むやり方でできるやつは、どんなやつか知りたくなった。今夜、うちに来て夕食を食べないか。ただで泊まって行きな。本も俺が買ってやろう。あんた、豚が好きなんだね。あんたはどう搔けば豚が喜ぶかよくわかっているよ」
ここでエリクソンは・・・「無造作に」屋根板片を取り上げて、農夫に話しかけながら豚の背を掻き始めた。農夫は、自分と同類の心を持っていると感じた男に無意識に反応したのである。
もちろんエリクソンは本を売る方法を教えているわけでも、人々を操作する方法を教えているわけでもない。・・・豚の背を掻くという効果的な行動は、エリクソンが自由に自己表現ができたからおこなえたのである。彼が自分の無意識を信頼していたように、そして農夫が自分の無意識を信頼して若いエリクソンに応じたように、エリクソンは自分の無意識を信頼するようにと私たちに勧めている。